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 金曜日。今日で学校を休んで4日目。

 

 ボクは夕方になると林へやってきて卓と遊んでいた。

 

「卓、携帯電話もってないの」

「お前はもってるの」

 ボクは中学に入学と同時に父さんに買ってもらった携帯を見せた。

「へえ。すごいなお前の年で携帯電話か。俺のクラスなんてポケベルしか持ってるやついないぜ」

「ポケベル?」

 卓と話をしていると、たまにボクとの間にこんな食い違いがでてくる。 なんでもつい最近まで田舎に

いたせいだって卓は言うんだけど。

「な、直人」

「ん、なに」

「これさあ」

 ボクが渡した携帯電話の画面をみながら驚いた表情をしている。覗き込むと日付と時間が表示された

携帯画面があるだけだ。変わったところなんてぜんぜん無い。

「2005年7月……」

「なに、なんか変なの?」

 卓はしばらく難しい顔をして画面をにらんでいたけれど、

「……いや、いいんだ」

 そういって眉を少ししかめてうつむいていた。

 ボクは卓のそんな表情をみているのがいやで、あわててまた話しかける。

「あのさ、卓が携帯買ったらさ、ボクに一番最初に番号教えてよね」

 すると卓は顔をあげて、さみしそうに笑ってつぶやいた。

「うん……そうだな」

 

 

 携帯を買ったら、買ったら、か。 

 なんてことだろう。死ぬつもりでいたボクは卓と出会って友達になれたら、あっさりと死ぬ気をなくしていた。

でも、でも。 もしあの時、卓が声をかけてくれなかったら。

 

 ボクはまちがいなく死んでいた。

 あんな中途半端な遺書だけを残して。

 

 

「あのスピーカー、相変わらずだな」

「え」

 卓にそういわれて気がついた。

 明日は神社のお祭りだ。毎年祭りの日が来ると神社に備え付けられているおんぼろスピーカーから祭囃子

が流れる。

 古いスピーカーのせいか太鼓や笛の音が時々途切れたり音がはずれて聞こえる。

「ね、卓。明日はここの神社のお祭りだよ。一緒に行こうよ」

 すぐに了解の返事が来ると思ったのに卓はちょっと考えるしぐさをした。

「いや?」

 心配になってボクがもう一度聞くと、

「うん、行きたいんだけど」

「行こうよ。ね、明日」

 

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2005/7/11  update

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