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 翌日ボクはまた学校を休んだ。


 で、そのズル休みを親に怒られたかというとそんなことぜーんぜんない。

 お父さんもお母さんも仕事があってボクが登校する時間より前に家をでてしまうから、昨日の休みもあわせて

「熱が出ました」 と自分で学校に電話をしたら簡単にごまかせた。

こういうとき日ごろ目立たない生徒というのは便利だ。



「えーっと」



 早速ノートを広げて『さきだつ』理由を一生懸命書き出してみる。

 まずは箇条書きで。



1.学校の優等生たちにいつもいじめられること

2.お金を要求されること

3.もうお母さんのさいふからお金をとりたくないこと

4.でも、もっていかないとおなかとかお尻をけられること


 ……ちがうな。

 これじゃあいつらだけが理由みたいだ。ちがうんだ。


 そう思って一番の理由をつけたした。


5.あの優等生達はキライだけど言いなりになっている自分が一番キライだ。


 こんなボクは、自分で自分を消してしまいたい。


 これでいいかな。

 この箇条書きの下に昨日書いておいたの『遺書文章』をつけたした。

 全文できるだけ心をこめて丁寧にキレイに書いたつもりだ。



 やっぱ、あいつに会って読んでもらったほうがいいかな。客観的な意見は聞いた方がいいと思うし。

 よし、下校時刻をちょっとすぎる時間をねらっていこう。



「よいしょ」

 ころあいを見計らってノートを持って立ち上がると、ボクはまたあの神社へ向かった。

 このとき何故だか分からないけど『あいつ』がいないかもしれない、とは全く思わなかった。


 林に着いてきょろきょろしていると

「よう」

 探していたはずなのに、後ろから急に声をかけられてボクはおもわず「きゃあ」と声をあげてしまった。
 
「な、なんだよ、お前。毎回驚くなよ」

 彼だ。

「あのっ、あの、ボク。書き直してきた」

 そう言ってノートを突き出す。

「ふーん」

 彼はノートを受け取ってぱらぱらめくると、

「こんだけ?」

 と聞いてきた。

「うん。た、足らないかな」

「5つかあ。 うーん。ちょっと少いな」

 やっぱり少ないか。ボクもそう思ったんだ。

「でも、昨日よりずっと読みやすい字だ。やっぱり丁寧な字で書いてあるほうが心を打つって感じかな」

 そういってボクの頭をなでた。

「お前、名前は直人(なおと)っていうの?」

「うん」

 ボクは頭をなでられたのがちょっと照れくさくて、顔を伏せたままうなづいた。

「俺は中山卓(なかやま たく)。お前苗字は」

「広瀬(ひろせ)……あの、さ、中山君はさ」

 どこの学校か聞こうと思って話しかけると、

「卓でいい。お前、直人でいいだろ」

「う、うん」

 卓はまたあぐらをかいて座り込むとボクのノートをじっくりと見た。

「まず、表紙にも名前フルネームで書いておいたほうがいいぞ。それから理由なんだけど箇条書きのあとは

そう思うにいたった理由とか心情とかもあったほうがもっと分かりやすいな。あと……」

「なに、まだあるの」

 彼はボクの顔を見てにっと笑うと、

「やっと字が読めるようになって分かった。誤字めーっけ。さてどこだ」※皆様もお考えください(笑)

 誤字? ええっと、どこだろう。

「じゃ、これは明日までの宿題な」

「えーーーっ、教えてよ、ケチ」

 気がつくとボクは卓と一緒に笑っていた。こんなに笑ったのは何日ぶりだろう。

 

 

「やっておきたい事とかないの」

「え?」

ひとしきり笑った後、不意に卓が聞いてきた。

 

「死んじゃったらさ、何もできないぞ。心残りをなくしておかなくていいのか」

 えっと……そういわれてみるとそうだ。でも、でもとっさには何も浮かばないよ。

「たとえばどんな?」

「いろいろあるだろ。そうだな、読みかけの漫画を全部読んでおくとか、好きなもん食べておくとか、行きたいところ

行っておくとか……」

「うーんと、じゃあ、今週のジャンプ買ってからにしようかな」

 結局そんな『心残り』しか頭に浮かばないボクってなんだろう。

「うわーっ、ジャンプか。あれ最高だよな。俺『ぬ〜べ』が好きでさあ。」

「ぬ〜べ……ってずっと前に連載されてたやつ?」

 すると卓はちょっと顔をしかめて、

「『ドラゴンボール』、最近読んでないんだけどさ、どうなった」

「え、読んでないの」

 

 結局、ボクは卓とそのまま話し込んでしまい、昨日までの悲壮感はどこへやら。

 帰るときにはごきげんで、まるでちいさな子供みたいにスキップをせんばかりだったのだ。

 

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2005/7/8  update

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