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 家に帰るとめずらしくお母さんが早く帰ってきていて夕飯を作っていてくれた。

「うわ。お母さん、今日は早いね」

「うーん、月初はいそがしくて。ごめんね、最近遅くって」

 ははっ、よく言うなあ。月末も遅いくせに。 

 

 

 明日は卓とお祭りに行くし、今日はお母さんがいてご飯を一緒に食べられる。

 なんか卓と知り合ってからいいことばっかり起こるみたいだ。

 あと学校のことがなければ最高なんだけどなぁ。

 

「新しい友達ができてね、卓っていうんだ。学校は違うんだけど明日は一緒にお祭りに行く約束したんだ」

 そんな話をしながらご飯を食べていると、お母さんが不思議そうな顔をしてボクを見ている。

「なに、ご飯つぶついてる?」

「今日はひっさびさにご機嫌じゃない。よっぽどその子と気が合うんだ。よかったね。直人」

 

 翌日お祭りに行くまでの時間が長くて長くてたまらなかった。

 ようやく時間になって走って神社へ行くと、いつも通り裏の林に向かった。

「おーい、卓、卓、たーくー。 あれ、早く来すぎたかな」

 変なの。いつも必ずボクより先に来ている卓が今日に限ってまだ来てないなんて。

 仕方ないので木の根元に座って卓を待つことにした。

 

 でも卓はこない。 ボクが来てからもう1時間近くたったのに。

 

 おかしい。いつもならもうとっくに会えているはずだ。

 どうしたんだろう。 早く行かないとお祭りおわっちゃう。

 

 なのに1時間以上待っても卓はこなかった。

 

 木の根元に座ったまま、どうしたんだろう、どうしたんだろうと考えていたらボクはうっかり居眠りをしてしまったようだった。

 

 それからどのくらいたったのか。

「なお、直人。おきろよ。風邪ひくぞ」

 頭をなでられて気がつくと、卓が心配そうな顔をしてボクを見ていた。

「ん……、卓? 遅いじゃんかよ。ボクすごーーーーく待ったぞ」

「ごめんな」

 卓はそういって寂しそうに笑う。

「あっ」

 あわてて飛び起きて卓の手を引っ張る。

「卓、はやく、早く! お祭り終わっちゃうよ」

「直人、そのことなんだけど。 俺やっぱりいけないんだよ」

 は? そう言われて

「だめっ」

 ボクは叫んで頭を振った。 だって、昨日の晩からずっと楽しみにしていたんだ。今日はどうしても卓と金魚すくい

したり綿菓子食べたりしたい。

「行こう、ね、ちょっとでいいから」

 ボクがこんなに言っているのに、卓は心配そうな顔をしたままだ。

「もう! 卓ってば」

 待ちきれなくなったボクは卓の手を引っ張って駆け出した。

「おい、ちょっと待てよ直人、待てってば」

 

 ボクにひっぱられてよろよろと走り出した卓は林を少し離れると、まるで弾かれたように驚いて後ろを振り返った。

「うわっ、なに? なんかあるの」

 ところが卓は何も言わずにボクの手を握ったまま林をにらんでいる。

 

「まさか。嘘だろう。どういうことだ……」

 

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2005/7/12  update

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