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(35)


「ルカ、お前はもういい。さがれ」

 アルド王子の厳しい声にルカは平伏した後、すぐに下がった。

「バーサはこっちだ。ついてこい」

「はい」

 いつになく機嫌が悪そうなアルド王子に従い、バーサは歩き出した。

 石の回廊を右へ左へ、韻を踏むように滑らかな足音のあとに、ぎこちない響きの足音が続く。

「王子、どちらまで行かれるのですか」

 バーサの問いに答えぬままアルド王子はなおも進む。

 回廊が終わると今度は階段である。体力には自身のあるバーサだったがさすがに階段の連続に

休憩がほしくなったくらいであった。

 さらにしばらく行くと、がらんとしたドーム型の屋根の広間に到着した。奥の扉の横に警備の兵士らが構え

ている。

 彼らはアルド王子の姿を認め、うなずくと重々しいその扉を開いた。

 「うわあ」

 扉の向こうは、城の中腹にある庭園であった。

 城壁の向こうはラブァ国城下が広がり、中央に見える堤から水が噴出している。

「こんなところに。なんてきれいな水……」

 水は小さく音を立てながら庭園の四方に伸びた水路の中へと流れていく。

「ダルダ山の氷がとけたものだ」

「すごい、この水路を作るのには時間がかかったでしょうね」

 王子に促されて、堤の水に手をつけたバーサはあまりの冷たさに飛び跳ねた。

わわ、冷たっ

 アルド王子はどっかりと堤のそばに座り込んだ。

「顔でも洗って頭を冷やせ」

「私の顔は……」

「なんだ」

 バーサは両手を自分の頬に当てて水面を覗いた。

「いえ」

 いわれるままに顔をつけると、冷たい水と水流が頬に当たる感触が心地よく、しばらくそのままの姿勢で

じっとしていた。

「心地よいだろう」

 アルド王子の声が聞こえる。

 顔を上げてうなずき水を払った。

「ここはずいぶん高いのですね、遠くまで見えます」

 言いながら、つい視線はルリナ姫が去った方角にながれてしまう。

「……ルリナ様では、なぜ駄目なのですか」

「お前こそなぜそこまでルリナをかまう」

 その問いかけにバーサは目を見開いたが、やがて答えた。

「アルド王子が私のことをかまう理由と同じなのかもしれません」

 

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2009/12/8 update

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