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(32)
ナツミ
それを聴いた瞬間、流れていた時が何かに引っかかったようにバーサは動けなくなった。
「バーサ、どうしたの」
様子に気がついたルリナ姫がバーサの顔を覗き込む。
部屋の隅に控えていたルリナ姫の主治医タイラはしばらくおだやかに成り行きを見ていたがやがて
立ち上がるとルリナ姫のそばへとやってきた。
「ルリナ様、そのように突然聞いてはバーサ殿が驚きましょう」
そしてバーサを見つめて微笑んだ。
「バーサ殿、あなたはこの部屋で丸3日眠っておられた。ご存知ですね」
ようやくこの声が聞こえたのかバーサはゆっくりと顔をあげ、了解の意なのかうっすらと目を閉じる。
「その間、何度も呼んでおられたのです。ナツミ、と。ルリナ様はそれを不思議に思われたのです」
「ああ」
ようやく何かがつながったのかバーサが声をもらした。
「バーサ、私、聞いてはいけなかったの」
「いいえ、いいえ、そのようなことはありません」
バーサはかるく頭を振って、答えた。
「ナツミ……とは、私の妹の名前です」
「まあ、名前なの。妹がいるのね、今はどこにいるの、故郷にいるの、もう嫁いでいるのかしら、ね、バーサ?」
ルリナ姫はもう一度バーサの顔を覗き込んだ。
「そうですね……」
バーサはしばらく言い淀んでいたが、やがてルリナ姫の目を見つめ、かすかに笑った。
「ルシード様と同じところに、いてくれればよいのですが」
「ルシードと」
ルリナ姫は眉根を寄せた。そしてバーサの言葉の意味を理解したのか、すぐに目を見開いた。
「バーサ、私はあなたにも怒られてしまうのかしら」
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「見事でした、アルド王子」
「何のことですか、母上」
意味ありげな王妃の問いかけにアルド王子は表情を変えずに答えた。
「隠すでない、ウスヴェラ国第3王女、ダダリル候息女に、ユライナ伯爵息女、ほかにも」
「この度の騒動の理由についてはサガから報告させた筈ですが」
2009/6/10 update
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