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(31)

 

「一年以上も前になるのね、ルシードが亡くなってから」

 ルリナ姫は目を細めて窓から見える空を見上げた。

「アルドはあなたにルシードのことを話したのかしら」 

「以前に少し。とても大事に思っていらしたようですね」

 それを聞くとルリナ姫は悲しげに微笑んだ。

「あの子はとても体が弱かったの。でもあの年齢にしては思慮深くて、聡明で。時折アルドよりも年上なの

かと思うくらいだったのよ」

 とても落ち着いていて……、この城の誰もがルシード王子を語るときそう評する。

「でもアルドがそばにいる時はとってもはしゃいで、それは愛らしかったわ。歳が離れていたせいかアルドも

過剰なくらいに可愛がっていたし。」

 ルリナ姫は大きくため息をついた。

「ね、バーサ、私はルシードみたいになりたかった」

「ルリナ様?」

「ルシードが亡くなったとき、すぐにでもこの国に来たかったの。悪い考え方だとは思うけれど、今度こそアルドは

私を見てくれるかもしれない、そう思って」

 バーサはだんだんと悲しそうな顔になるルリナ姫を見ながらその手を包み込むように握った。

「でも一年たってようやく会えたのにアルドったら冷たいのよ。こうして帰国が決まっても訪ねてもくれないなんて。

ね、バーサ」

「はい」

 ルリナ姫は腰をかがめてバーサを立ち上がらせた。

「私、バーサのことが大嫌い」

「は」

「気に入らないの。なのに、私を助けてくれて。他の貴族の娘みたいに嫌な子だったらよかったのに」

 声を詰まらせて話しながら、ルリナ姫の目からは大粒の涙がこぼれた。

「嫌いよ、私が来られないうちにアルドの前に現れて、バーサったら」

 バーサはたまらずルリナ姫の頬に手を添えた。

「あなたには、ルリナ様には幸せになっていただきたいです」

 バーサの声もかすれている。

「ほら、そういうところがもっと嫌いよ、バーサ」

 そういうとくるりと身を翻して、バーサの顔を覗き込む。

「ルシードの話がもっと聞きたいでしょう? では私にも教えて」

「私にわかることでしたら」

「では、『ナツミ』って何か教えてくださる」

 その名を聞いてバーサは目を見開いた。

 

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2008/10/16 update

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