Kaoru Tachibana (C) all rights reserved.  

このページで使用している素材の2次配布を禁じます。 内容の無許可転載は厳禁です。


(33)

 

「よりによって許婚がいるものばかり、帰郷せよと命をだしたら皆ひそかに喜んでいたと聞きました」

 いいながらその表情は少し悲しそうである。

「母上、報告を受けているなら詳しいことはご存知でしょう」

「そうでした……ルリナ姫を守るためとか」

 うなずきながら王妃は豪奢に飾られた肘掛をなでる。

「まあいい、アルド王子。お前を呼んだのは面白いことを聞いたからです」

 王妃の言葉にアルド王子は無表情のままかすかに首をかしげた。

「久しく見限っていたサシャを動かしたとか」

 これを聞いてアルド王子はため息をついた。

「母上は相変わらず耳がはやい」 

 すると王妃は楽しげに笑い出した。

「あなたのそのような顔を久しぶりにみました」

 少し困ったような表情を浮かべるアルド王子は『かつての彼』を思い起こさせた。

「ですが」

「はい」

「つまらぬことで暴走するのはあなたの悪い癖です」

 だまりこむアルド王子にさらに続けた。

「時に王子、例の医師、バーサといいましたか」

 バーサの名を聞くとアルド王子の目つきが鋭くなった。

「なに、案ずるには及びません、私もそれに会ってみたいのです」

「お言葉ですが、母上。他にも医師はおります。理由もなく身分のないものに会うなど」

 だまりなさい、そう言いたげに王妃は片手を挙げ、アルド王子を見つめた。

「あなたが言いますか。それを」

「用がお済のようですので、これで」

 もう話す気はないと言わぬばかりにアルド王子は背を向けた。

 

 

 

 自室に戻ったアルド王子はすぐさまサガ宰相を呼びつけた。

「母上にバーサのことを話したか」

「はい、問われるままに」

 サガ宰相はたいしたことではないかのように答える。

「余計なことは話すなといっておいたはずだが」

「バーサのことは余計なことではないと判断しました」

 この言葉にアルド王子は片方の眉を上げた。

「それに、バーサのことは以前からご存知です。ならばつまらぬ虚言、詮索にまどわされぬようあえて先にバーサ

のことは報告しておくべきかと」

 サガ宰相はなおも続けた。

   

←もどる つづき→

 


←コンテンツページへ

2009/6/14 update

 ←ご感想・誤字発見はこちらまで