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(30)

 

 バーサは自身を引き締めるように軽く首をふった。

「アルド王子」

「なんだ」

「私の理解に間違いがなければ……『踊る』、とは必要以上に体を動かすことなのでは」

 なにやら言い始めたバーサにアルド王子はまたにやりと笑った。

「うむ、たしかに多少は体を動かすことが必要だな」

 バーサはややおおげさにため息つく。

「このようなことを申し上げるのは恐れ多いこととは分かっておりますが」

「ほう、ずいぶん難しい言い回しを覚えたな。何が言いたい」

 アルド王子はその言葉の続きを促す。

「実は、体を必要以上に動かしますと、その……まだ痛みが」

 その言葉に王子は眉をひそめた。

「やはりまだ完治とはいかないか」 

「はい」

 先ほどとは変わってアルド王子は無表情になり、腕を組むとバーサに問いかけた。

「完治までどのくらいかかる」

「そうですね、今の月が半分に欠ける頃には(約1週間から10日位)」 

 アルド王子は腕を組んだまましばらくの間何も言わなかった。 

「無理を言うつもりはない。今日はもう下がっていい」

「はい。ありがとうございます、王子」

 バーサは何かから回避できたようで ほっとしていた。

 脇に控えていたサガ宰相もバーサの退出をうながす。 

 バーサが退出した後、笑みを含んだままアルド王子は宰相に声をかけた。

「月が欠けるころなら間に合うな。サガ、近々サフィル候のところへ行くことが決まっていたな」

 サガ宰相はやや大げさに声を上げる。

「おお、ご記憶でしたか。いつものようにうっかりお忘れになったかと」

「ふん、お前のほうこそいつもならもっとうるさいだろう」

「バーサをおつれになるので」

 アルド王子は何を考えているのか楽しそうである。

「アルド王子。サフィル候のことをご記憶なのは結構ですが、他のこともお忘れなきよう。

ルリナ姫のこと、ほか姫君たちの事、妾姫であられたとはいえキリヤ殿の喪儀の式のこと……すべては

それがすんでからのことでございますぞ」

 

 

 

 日が差し込む部屋の窓からルリナ姫は物憂げに外をみつめていた。

「バーサ。せっかくあなたとも親しくなれたというのに、もう帰らなくてはならないなんて」

 アルド王子との話を終えたバーサはその足でルリナ姫の部屋を訪れた。

 悲しげなルリナ姫を前に、そばに控えるダリもうつむいて何も言わない。

「……義母上が亡くなられたとききました」

 バーサが小声でこたえるとルリナ姫は首をふった。

「ほとんど会ったことがないわ、兄上とだってほとんど話す機会なんてないの、だから」

 言いよどんだルリナ姫の顔は今にも泣きそうである。

「ルシードは幸せだったのよ、兄であるアルドからあのように愛されて」

 ルリナ姫の前にひざまずいたバーサはそのまま姫の手をとった。

「ルリナ姫はルシード王子にお会いしたことがあるのですね。聞かせてください、ルシード様のことを」

 

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2008/7/26 update

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