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(28)
その翌日、バーサは頭に黒い小鳥のアンドレ、左肩には金色の小鳥のオスカルをのせ、右手で
パリカールの手綱をにぎって森の小道を歩いていた。 ヒンドゥ老師を訪ねたその帰り道である。
ようやく朝日が昇り、もやがきらきらと光っていた。
この国の言葉を理解する以前、老師のもとで修行していたバーサは、こんな早朝であっても老師が仕事の
準備を始めることを知っていた。だからこそまだ暗いうちに老師を訪ねた訳であったが。
その帰り道、バーサは大きくため息をついて肩を落としていた。
「いたた、こら、痛いってばオスカル、耳たぶに噛み付いたらだめだって」
ジジジジジ……
するとアンドレもバーサの髪の毛をひっぱりだし、パリカールまでもが「ぶうぶう」言って前足で地面を蹴った。
人の感情に敏感に反応するオスカルは、バーサがちょっとふさぎこむとこうして騒ぎ出すのだ。するとアンドレも
パリカールもそれに便乗しだすのである。
「ああ、もう。別に落ち込んでるわけじゃなくて、久々に老師にあってちょっと怒られてね。なんかおじいちゃん
思い出してしまって」
誰が伝えたものか、バーサがルリナ姫をかばって怪我をしたことがヒンドゥ老師にも伝わっていた。
注意がたらぬと「人を守るための心得」をたっぷり聞かされた後、「自分は死んでもかまわない」というような
投げやりなやりかたは『真の守り』にあらずと釘を刺されたのである。
まるで自分の心をみすかされたようで驚くと同時にかつて同じようにバーサを諭してくれていた祖父を思い出
してたまらなくなった。
「あと言葉使いが乱暴になったってしかられたな、ルカに言わせると私の言葉は丁寧すぎるというし……難しい
ものですね」
ジキジキジー!
突然、オスカルが羽をばたつかせて騒ぎ出した。
森から抜ける出口はもうすぐであったが、耳を澄ますとそちらの方向からかすかにひづめの音が聞こえてくる。
「誰か老師のところに行くのかな」
バーサは暴れているオスカルをそっと手のひらでつつみこみ、パリカールをつれて小道をはずれ様子を伺った。
「あれ?」
近づいてきた音の主の姿が見えた。
「なんかアルド王子に見えるけど」。目をこらすとやはりアルド王子がこちらに向かって馬を駆っている。
「バーサ!」
アルド王子もバーサをみつけたらしく大声を張り上げてバーサを呼んだ。
「お前は何をしている、まだ一人で動くなと言ったはずだ」
王子は馬をおりると大きく肩で息をした。
「王子こそ、また供のものも連れずに抜け出してこられたのですか」
言われたくない言葉だったのかアルド王子は眉をひそめた。
「……怪我が治ったばかりだろう。まだ私のそばから離れるな」
アルド王子は自分のマントをはずしてバーサの肩にかけるとそのままバーサを引き寄せた。
「話がある、城に戻るぞ」
2007/12/9 update
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