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(26)
アルド王子は足早にバーサに近づくと、その手首をつかんで持ち上げた。
「バーサ」
「は、はい」
「なぜアルシャの服を着ている」
「はぁ?」
以前着ていた服が着られなくなってしまったため、バーサはルリナ姫から供された服を着ていた。
「あの、 これはルリナ様からいただきまして……わわっ」
アルド王子はバーサの両方の頬を挟み込むようにつかむと今度は顔を近づけてまた眉をひそめる。
「ルタの香りか……お前、ルリナのところで湯浴みをしたのか」
「は、はい、タイラ殿に毒を洗い流すようにと薦めていただいて」
バーサがそう答えると王子は大きくため息をつき肩から力を抜いたが、眉間には深い皺を作ったままだ。
「王子……」
「すぐに着替えろ、全く」
王子の不機嫌そうな表情にバーサはとまどうしかない。二人が気がつかぬ間に王子の後方に控えていた
サガ宰相も顔をしかめて事の次第を見つめている。
「はい、着替えてまいります」
バーサが下がろうとすると、王子はまたバーサの手をつかんで引き止めた。
「それより傷の具合はどうだ、痛みはないか、もう完全に治ったのか」
心配そうなその言葉にバーサはようやく笑みを浮かべて答えた。
「ええ、もう平気です。すぐにでも仕事に戻ります」
「そうか……とにかく無理せず、今日は部屋で休め」
バーサが立ち去った後、控えていたサガ宰相が大げさにため息をついた。
「ご来賓の姫君たちにもあのやさしさの欠片でもいいからお見せくださるとよろしいのですが」
「なんだ、お前まだいたのか」
サガ宰相は顔をしかめたまま続けた。
「王子、お話がございます、奥の間へ」
奥の間へ入るとすぐ、宰相は話だした。
「アルシァのキリア様が急な病でお隠れになられたとか……」
「ルリナはすぐに帰国することになるだろうな」
アルド王子がその声に抑揚もなく答えると宰相は声を低くして王子に問いただした。
「王子、先日お呼びになったサシャに何をお命じになられた」
「……サシャを呼んだ時点でお前には察しがついていると思うが」
「王子!」
「二度と同じことが起こらぬ様、その源を見つけ処理せよと命じただけだ」
刺すように王子を見つめるサガ宰相にアルド王子も瞳をそらさず答えた。
「わが国かつての英雄、ヒンドゥ老師が認めたはじめての弟子であり、腕のいい医師であり、何よりあなた
事のほか心を開いておられるからと、私自身バーサに甘すぎたかもしれません。王子、事は国政にかかわります。
今後はこういったことは控えてもらわねばなりませんぞ」
サガ宰相は首を振った。
「バーサは弟君の、ルシード様の代わりはございません、ましてや」
「なんだ」
「バーサでは跡継ぎは望めますまい」
2007/8/14 update
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