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(14)
コツン、コツン……
「あれ、王子。窓の外に何か」
「なんだ」
バーサは窓のそばに駆け寄るとそれを開けた。すると騒ぎの元になったあの金色の小鳥がキラキラと光を放ちな
がら飛び込んできたのである。
「うわわっ、あの小鳥は一体……」
金色の小鳥の後に黒い小鳥も飛び込んでくる。
「ああ、そうか、思い出した。この小鳥はルシードの……ルシードのかわいがっていた鳥だ」
「なるほど。どうりで人に慣れていると思いました。かわいそうに、ルシード様を探していたのでしょうね」
王子の言葉にバーサはそう相槌を打ち、そのまま小鳥に向かって手を伸ばした。
まずは金色の小鳥がバーサの指にとまり、次に黒い小鳥がバーサの頭にとまった。
「おまえ、怪我はなかった? あの時は診てあげられなかったから……ちょっとびっこひいてるかな」
指に止まった小鳥に手を添えて診ていると、いじめられていると思ったのか黒い小鳥が頭の上で「ジジジッ!」と
騒ぎ出した。
「ああ、ちがうってば。診てあげてるんだよ。いじめてるんじゃないって。お前もこっちへおいで」
バーサは黒い小鳥を手に止まらせてアルド王子に向かって微笑んだ。
「アルド王子、ルシード様はこの小鳥達に名前をつけていませんでしたか」
そう聞かれてアルド王子はルシード王子との記憶をたどった。しかし小鳥と戯れて微笑むルシード王子の笑顔は
思い浮かぶのにもかかわらず小鳥達の名前は浮かんでこなかった。
「名前か。ルシードのことだからつけていたと思うが……思い出せない」
彼はそういうと眉間にしわを寄せた。
するとバーサはがっかりするどころか、すこしうれしそうにこう言った。
「では私がつけましょう。金色の君は『オスカル』、黒の君は『アンドレ』いやあ、ぴったりでしょう」
バーサは一人で首を振り、満足気だった。
「ずいぶん高貴な名前だな。『オス……』と何だ」
「『オスカル』と『アンドレ』ですよ。これしかありえません。この二匹はきっとつがいでしょう。オスカルが窮地に陥ると
助けにくるアンドレ……。ああ、素敵ではありませんか」
「……」
アルド王子からしてみればバーサが何を言っているのかさっぱり分からない。しかしバーサのうれしそうな笑顔に
自身が癒されていくのを感じている。
「お前達も私と来る? 一緒に暮らそうか」
バーサの言葉にアルド王子がそれを止めた。
「だめだ。それはルシードがかわいがっていた小鳥だからな」
「ええっ、ああ、そうですよね」
しかしすっかり機嫌を直した王子は大笑いしてバーサに命じた。
「バーサ、明日からはしっかりこいつらの面倒をみろ。お前は名付け親なんだからな」
その命に驚いて瞠目しているバーサをおいて、アルド王子は立ち去ってしまう。
「失敗したなぁ、また往診にいけなくなったらどうしよう。こら、お前達……」
つぶやくバーサに二匹は「ジジジ」と鳴いて返事をした。
その後バーサはますます忙しい日々を送ることになった。
老師のところへ言って言葉はもとより、薬草のことなどを学び、それが終わると患者の往診、パリカールの面倒を
見てから城へ行ってルリナ姫とダリを見舞い、その途中何度か王子に呼び出され、さらに王子に言われたとおり
オスカルとアンドレをかまうころには日が暮れてしまう。なんせ年中城内にいるものだから時には軍医の手伝いも
するようになってしまったのだ。
「やれやれ、城に来るのは午前中にしたほうがよさそうですね。なかなか家に帰れません」
バーサは城内であてがわれている部屋で溜息をついた。
そんなある日。
「ああーっ」
ルシード王子の部屋からバーサの驚く声が響いた。
その声に驚いた兵士が数人駆けつけ、更にしばらくすると騒ぎの報告を受けたのかアルド王子もやってきた。
「ああ、王子までおいでになったのですか。申し訳ありません、その。実は大変つまらないことで驚きまして」
アルド王子がバーサのいるバルコニーまでやってくると、はたしてバーサの手には『オスカル』がとまっており、
バルコニーの片隅に作られた二匹の巣には『アンドレ』が見えた。
「バーサ、一体どうしたのだ」
「いえ、あの……」
バーサは恥ずかしそうに軽く咳払いをすると。
「『アンドレ』が……卵を産んでいました」
2006/4/6 update
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