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(15)
「アルド王子」
サガ宰相がアルド王子に呼びかけた。
「何か分かったのか」
「お待たせしておりましたが『ご希望のものを取り寄せ』ました。つきましてはあちらにてご報告させていただきます」
アルド王子は彼の言葉にうなづくと警護の厳しい奥の間へと入っていった。
「やはりな。長い間ルリナをこちらに寄越したままの訳だ、あの狸が」
報告を聞き終えたアルド王子は溜息をついて首を振った。
「はい。三人おられる王子すべての母君が違い、第一王子のカイル様はお体が弱い。
第二王子のルイザ様、そしてルリナ様と母君が同じ第三王子のドイル様の母君らが対立して騒動になるのは当然か
もしれません」
アルド王子は聞きながら露骨に嫌そうな顔をした。
「アルシャ国の跡継ぎ問題にも困ったものですな。しかしあのお方もさすがにルリナ様が巻き込まれるのは避けた
かったとみえる」
「ルリナに弱いからな、あの王も」
サガ宰相はうなずくと、たたみ掛けるように続けた。
「だからこそルリナ様を亡き者にしようという動きを悟って先んじてあなた様に託されたのでしょう、王子……」
顔をしかめたアルド王子は低い声で切り替えした。
「各国の適当な貴族に声をかけて花嫁候補を城に集めろ。できるだけ娘の容姿がルリナに似ているものを増や
せ」
「すぐに手配いたします」
表情には出さなかったがサガ宰相はほくそ笑んだ。理由はどうあれ堂々と花嫁候補を募ることができるとは、と。
同時に警備を増やしても当然のことで各所に余計な不信感を与えずにすむ。
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「『オー』に『アー』……ですか」
バーサはオスカルとアンドレを指にとまらせたまま溜息を付いた。
「気づかなかったな、だから『高貴な名前』って王子が言っていたのか、パリカールのときも不思議そうな顔してたし」
コチラの世界では高貴な人ほど名前が長くなる。だから簡単に「アルド王子」と呼んでいたが実は王子の正
式な名前は『じゅげむ』もびっくりの長い名前らしいのだ。
特に動物などに名前をつける習慣などない彼等にとってバーサのネーミングは最悪だったのである。
バーサはそんなことに全く気づかなかった。だが城の兵士達がオスカルとアンドレのことを「オー、アー」と呼んで
いるのに気付き、理由を尋ねて初めてその『きまり』を知ったのだった。
バーサの感覚からすると可哀相なのはパリカールだ。
忙しさにかまけて気づかなかったとはいえ皆からは『パー』と呼ばれていたのだ。
「ごめんよ、パリカール、あんまりだよね」
しかし実はバーサが気づけなかったのも無理はなかった。
高貴なものたちほど正式な名前を秘すようになっているため、そういった決まりごとは誰もあえて口には出さなか
ったのだ。
「いまさらパリカールの名前を変えるなんてできないし……」
バーサがうじうじと考えていたとき。
にわかに城内が騒がしくなっているのに気がついた。
日ごろは何をするにも物音一つたてない女官達がせわしなく歩き回り、兵士達の配置も変わっている。
「あの」
「はい、何でしょうバーサ先生」
顔見知りの女官を呼び止めて理由を聞くと。
「アルド王子様のお妃候補の方たちをたくさんお迎えすることになったのです。もう大騒ぎですわ」
「えっ」
バーサは自分の胸につん、とした痛みを覚えた。過去に記憶のある嫌な痛みだ。
「そ、そう、ですか。おめでたいことです」
そう返事をしながら「王子から何も聞いていない、いや、町医者ふぜいが王子からそんなことを事前に聞かされる
必要などないか」などと思っていた。
バーサは自分が一体何にこんなにショックを受けているのか分からない。
いや、分かっているがいつからそんな事を思っていたのか自分で理解できなかった。
そしていつもなら下がるときは必ずアルド王子に挨拶をしてにもかかわらず、とてもそんな気にはなれず、「パー」
ことパリカールとともに久々に自分の小屋へと帰っていった。
「バーサ、バーサはどうした」
アルド王子は先ほどまで小鳥をかまっていたはずのバーサがいなくなっているのに気づいた。
「誰か、バーサを呼べ」
2006/4/16 update
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