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(13)


 バーサはルリナ姫を部屋へ運び込むとすぐさま彼女の主治医にたくし、ルリナ姫以上に興奮して震えている

ダリの手をとって椅子に座らせた。

「ダリ、ダリ」バーサはダリの顔の前に指を一本立てて見せる。

「この指の先を見てください」

 ダリは息が荒いままだったがバーサに言われたとおり指先を見つめた。

 その指をゆっくり左右に動かしながら「ダリ、息を吐いて」バーサの落ち着いた声が響く。

「次はゆっくり息を吸ってください。そう、目はこの指からはずしてはいけませんよ」

 それを繰り返しているうちにダリの呼吸は落ち着き、まるで力がぬけたように肩を落とした。

「安心してください。姫は主治医殿が診ています」

「バーサ様……アルド王子にお詫びを。姫は悪くないのです。姫はアルド王子にあの金色の小鳥をみせて

さしあげようとしただけなのです」

 バーサはそっとダリの背中に手をあて、

「ダリ、後で詳しく状況を説明して王子に分かっていただくことです。今は姫もあなたも、そして王子にも時間が必要

です」そういって彼女の背中をなでた。

 

 

 しばらくしてルリナ姫たちの部屋をでたバーサはすぐに宰相に呼び出された。

「王子にお怪我はなかったでしょうか」

 サガ宰相の元へやってきたバーサは真っ先にそのことを尋ね、宰相の表情をうかがった。

「怪我? いや、お怪我はないが……、あの部屋はまずかったな」

 バーサはうなずくと

「あそこはルシード様のお部屋ですね」そう答えた。

「王子はまだあのお部屋におられる。バーサ、行ってくれるか」

 

 バーサがルシード王子の部屋を訪れたのはそれからすぐであった。

「ひょっとしたら返事はないかもしれない」

 そんな危惧をよそに扉を叩くと「誰だ」と言う声が中から聞こえた。

「バーサです。王子。入ってもいいですか」

 返事はない。

「王子、入ります」

 バーサはゆっくりと扉を開けた。

 朝の騒動がうそのように、ひっそりとした部屋の中央にアルド王子は立っていた。

「警護のかたもいないのですか。もうすぐ日が落ちますよ、王子」

 部屋はルリナ姫がちらかしたときのまま、いろいろなものが散らばっていた。そんな中、アルド王子はただひ

たすら悲しげな目をして立っている。

「一緒に片付けましょうか、私が拾いますからどこに置いてあったものか教えてください」

「片付けだと?」

 バーサは足元に転がっていた小物入れを拾い上げた。

「このままでは、ルシード王子がおかわいそうですよ。王子」

 アルド王子は目を大きく見開いてバーサの顔を見つめた。

「……その小物入れは母上が……王妃がルシードに贈ったものだ」

 それからアルド王子はちらばったものを一つ拾い上げるたびにぽつりぽつりとルシード王子との思い出を語りだ

す。

 しまいには王子自らバーサと一緒に片付けを始めた。王子として生まれて部屋の片付けをするなど初めての経験

であったであろうがルシード王子が大切にしていたものを他の誰にも触らせたくない様子であった。

 

 こうしていつの間にか日はしずみ、部屋の中はすっかり暗くなった。

「王子、今日はここまでにいたしましょう」

「ああ、……暗くなったな」

 言いながら王子はバーサを見つめた。

「ルシードのことを話したのは久しぶりだ」

「そうですか。たまにはこちらにいるルシード王子を外に出してあげないと」

 そういってバーサは自分の胸をトン、とたたく。

「手をみせてください」

「何だ」

 手の甲を診たバーサは、「すこし青くなりました」そう言ってうなだれた。

「私は牢屋にはいるのですか」

「お前が、牢に? なぜだ」

 アルド王子はバーサが何を言っているのか分からず首をかしげる。

「その、王子に……手を上げましたので」

「お前に手を上げられた覚えはない」 

 そう言うとバーサに背を向けた。

「あきれたろう。ルシードのことになると冷静でいられない……どうしても」

「王子」

 バーサが思わずアルド王子の肩に触れると、彼は振り返ってバーサの手をとった。そしてそのままバーサを

抱きしめた。

「少しの間このままでいてくれ」

 

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一言……この章の冒頭でバーサがダリに施しているのは呼吸法の一つです。なにか一点に集中させ、


呼吸を誘導すると興奮状態にある人はだいたい落ち着くそうです。

 


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2006/3/15 update

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