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「じゃあ、土曜日に」

 真吾さんはそう言って手を振って帰っていった。

 のこされた私の手首には重いロレックス。 自分のオメガどうなろうとかまわなかったけど(ごめんね。

お姉ちゃん)これは返さないと犯罪になりそうだ。

 どうしよう。 どうしよう。

 自分で「終電が……」とさわいでいたにもかかわらず、地下鉄の構内をぐるぐる歩き回って考える。

 やっと目的のホームにたどりついたら目の前で列車が発車する寸前ということに気がついて

あわてて飛び乗り、またそのまま考え続けた。 

 

「恵ちゃーん。おかえり。遅かったじゃなーい。ちゃんと言えたのぉ」

「ただいま」

 するとこの時の声と表情で結果をさとったのか、

「言えなかったのね」

「……」

「ねえ、聞かせて聞かせて、どうなったのよう」

 すぐこうなるところはやっぱり『お姉ちゃん』だった。

 その後一時間もしつっこく聞かれ、話が腕時計の交換に及ぶと。

「恵ちゃん、その強気攻め真吾君はあの時計をもっていっちゃったのね」

お姉ちゃん、その『形容詞』はないでしょ。

「ふん。やるじゃない。その男」

 姉はたちあがると急に電話を始めた。

 

「あ、あたし。亜紀。遅い時間にごめんね。うん、うん。最近連絡も取れなくてごめんなさい。忙しいのもあったけど、

ちょっと困ったことがあって。去年、恵ちゃんのバースディプレゼント一緒に選んでもらったじゃない。

そう。恵ちゃんの腕の時計をみるたんびに弘君のこと思い出してたんだから。で、その時計、私にしつこく

言い寄ってきた男に取られちゃったの」
 

 なんですと。お姉ちゃん……一体何を言うつもり。
 

「あれって、本店で買ったから製造番号から購入者がわかると思うの。そうするとすぐに弘君が買ったって

わかちゃうわよね」
 

 は? お姉ちゃん、すると何ですか。あなたは妹へのプレゼントまでボーイフレンドに買わせていたと。

 どうなってんのよ。普通彼女が「男物の時計」ほしがる段階で怪しいとか思わないのかな。
 

「すっごいストーカー君だから弘君のことわりだして私のこと探ってくるかもしれない。ほら、前にもいたじゃない、

携帯の電話番号から私の自宅までわりだしてきた銀行員が」
 

 それは覚えている。

  銀行で営業担当、しかもカード関係を扱う部門の社員は他人の電話番号、携帯番号から個人金融関係情報

を簡単にさぐることができる。それも社員カード一枚コンピューターに差し込むだけで。

 その電話番号の人物がカードを使うに値する人物かを探るためだ。

 携帯番号からでもその代金の支払いを銀行口座引き落としにつかっていればぜーーーーんぶ金融関係の

情報は銀行員にばれてしまう。

 もちろん普通はそんなことをすれば職権乱用として会社からも社会的にも罰されるはずだけど。

 結構かっこいい人だったのに最後はストーカー呼ばわりでかわいそうだった。いや、もちろん職権乱用は

いけないんですよ。

 

「気をつけてほしいの。あの時計についてあなたの上司、同僚、飲み屋で隣になったひと、誰でもいいわ。

その時計の話題にに触れてきた人全員に出張先でお金が足らなくなったときに中古ショップに売った、

売った先は覚えてないって言ってほしいの」


  はあ。よくそこまで頭がまわるわ。さすがBL専門とはいえ作家である。はばたく妄想に終わりがない。


「絶対約束よ。毎日メールでもいいの。連絡頂戴。うん。待ってる。この件が片付いたらすぐに会おうね。

うん。うん。大丈夫。泣かないもん。弘君も気をつけてね。じゃあね」

 泣きそうな声出しちゃって。男はこれにだまされる。


「さーてと恵ちゃん。どうやらその男、本気で恵ちゃん探す気らしいから気をつけないとね」


 さっきまでの泣き声はどこへやら、その急な変貌は何なのよ。

 真吾さんにもびっくりさせられるけど22年間一緒にすごしてきたはずの姉にもたまげる。

「恵ちゃん。土曜日に会うんでしょ、さすがに同じスーツはまずいわ。明日洋服調達に行きましょうね」

「調達ってデパートにでも行くの」

 すると姉は急に笑い出した。

「やあだ恵ちゃん。新品の洋服なんてだめよ。あのね、そうでなくてもゲイの男って鼻が利くのよ。

ちゃーんとおホモ達の男の子から洋服かりれるようにしておくから」

「!!!」

 つ、ついていけない。 

「お姉ちゃん、だって、だって、女だって言わないと……」

「あ、そうか。なーんかおもしろくなってきちゃったのよね。真吾って人さ、きっといままでこんな風に

ふりまわされたことがないと思うのよね。たまにはうーんと痛めつけられるのもいい経験じゃないの。」
 

 ちょっと、このままじゃ、真吾さんまで姉のおもちゃ(ネタとも言う)にされてしまう。

 今度こそ、今度こそ会ってその場で言うぞ。保険じゃないけど手紙も持っていこう。

 また言えなかったときのために。
 

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2005/2/13 update

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