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「香さんてばおもしろい」

 大声で笑ってしまったあと、ふと見ると真吾さんがちょっとムッとした顔でこちらをみている。

 いけない。 笑いすぎたかもしれない。

「ご、ごめんなさい。変な意味じゃなかったんですけど」

「いや」 真吾さんはその表情のままカクテルに口をつけている。

 するとそれをみていた香さんが笑い出した。

「いやぁね。 真吾さんはすねてるのよ。 私が先に寺崎さんの笑顔をみちゃったから」

 はぁ?

 真吾さんの顔をみると今度は複雑そうな顔をしている。

 本当なのかな……。ちょっとうれしくなった自分がこわい。

 しばらくすると、お客様がふえたせいか香さんは席をはずしていた。

 

 うわわ。 気がつくと時刻はすでに11時をまわっていて、最終電車の時間が気になってしまう。

 どうしようかと思ったけれど、このままじゃ終電に乗り遅れちゃう。

「あの、私そろそろ。真吾さんも明日お仕事でしょう」

 こんな感じで私のためじゃないのよ、あなたのためよ〜なんてアピールしてみる。

 真吾さんはゆっくりと自分の腕時計をみて

「まだ11時だが」

 もう11時だってば。

「でも、あの、今出ないと終電の時間もありますし」

 お風呂にも入らなくちゃいけないし、ドライヤーかけたいし、明日は社外に出るからパックしたいし。

 何より寝不足はお肌の敵だし。なんか意味もなく一生懸命帰る理由を考える。

 どれも『男として』の説得力がなさすぎだ。こ、こういうとき男性はどういう理由を言うんだろう。

 

 彼は私の声が聞こえないかのようにゆっくりカクテルを味わっている。

 私といえばどうしても時間が気になって自分の腕時計を見てしまう。 すると急にその手を真吾さんにつかまれた。

「わぁ!」。いきなりだったので腰がぬけるほどびっくりした。 

 真吾さんはそのまま私の手から時計をはずしている。

 はああああ。

「いい時計だな」。そういって見せる不敵な微笑み。

 それは去年の誕生日に姉からもらったオメガの時計だった。私の手のサイズに合わせたとかいってきっちり

メンズ。正直もっとかわいいのちょうだいよ〜、と思ったけど。

 すると今度は真吾さんが自分の時計をはずしている。 どひゃー。高そうなロレックス。

 どうするつもりかな。なんて思っていたら、なんと真吾さんは自分のロレックスを私の手首にはめてしまったのだ。

 脳みそがクエスチョンマークでうめつくされる。どういうつもりだろう。

 そして自分の手首には私の時計をはめている。

 締め付けられる感じが嫌いでかなりゆるめにはめていたけど、さすがに真吾さんにはちょっときつそうだ。

「あの、あの、あの、真吾さん、これはどういう……」

「今度会ったとき、この時計は返そう。それまで私の時計を使うといい。わかったね」

「は、いえ、私にはこんな高い時計は預かれません」

「じゃ、明日にでも会って返してもらおう」

「え、あ、ごめんなさい。明日は接待の予定があって。ダメなんです」

 もう会わないつもりだったのに、これは困った。またやられた感じ。

 とことん真吾さんのペースにはめられている、時計を返すにはもう一度会わなくちゃいけない。

 いや、いかんぞ。なに考えてるの、いま返しちゃえばいいんじゃないの。

「真吾さん、悪ふざけはこまります。時計かえしますから」

「さ、終電の時間がせまっているんだろう。もう出よう」

 きゃー、お願い。私の話を聞いてくださいっ。

 結局そのまま近くの駅までつれていかれて、私の話なんかぜんぜん聞いてくれなかった。

 うわーん。

 おまけに別れ際、

「土曜日の6時に駅に迎えに行くから」

 真吾さんの目は「うんと言わなきゃこのまま帰さない」と語っていた。

 

 ああっ。もう。

「この待ち構え攻撃はつづくとおもうよ。 金持ち強気攻めにありがちなパターンよ」  

 そう言った姉の声が頭の中をぐるぐる回っていた。


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2005/2/6 update

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