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 「また林からでられるかな」

 ボクの頭をなでたあと卓がつぶやいた。

「え?」

「試してみるか」

 そういって彼はボクの手をとる。

 一緒に立ち上がって二人で林をでると、

「へえ。やっぱり大丈夫だ。……やっと出られたんだぁ」

 林を振り返って卓が言う。

 そういえば卓はさっきから何度も林の方向を気にしていた。

「卓……。あの林がどうかしたの」

 すると卓がにっこり笑って。

「ああ、俺、何度も林からでて家に帰ろうとしたんだけどだめだった。ちょっと出ると蔦が……」

「蔦?」

「そう、蔦が追いかけてきてね。つかまって連れ戻されちゃうんだ」

 

 ボクは卓が何をいっているのかわからなくて目を見開いた。

「あ、ごめん。何言ってるのかわからないよな、うーんっと」

 彼はぽりぽり頭をかくしぐさをして、それからふーっとため息をついた。

「直人、お前は信じられないと思うけど、俺さ……」

「い、いやだ、何も言うな!」

 ボクが突然大声をだしたので卓は驚いていた。

「いい、何も聞きたくない! いいんだ。このままボクのうちに行こうってば」

 卓の手を引っ張りながら止まったはずの涙がまたこぼれてきた。いいんだ。なにも聞きたくない。 

 すると彼はふっ、と笑って、

「ごめんな。でも俺、直人に聞いてほしいんだよ。いいか」

 ボクは何もいえず下を向いた。

 

「たしか平成6年……夏……だったよ、お祭りが近かったから。俺さ、この林の木に友達とみんなで登ってさ。

馬鹿だから足滑らせててっぺんから落ちたんだ」

 それからボクのほっぺたをはさむようにつかんで上に向けた。

「母さんに危ないからここにくるなって何度も言われたんだけどなあ……」

 卓が今にも泣きそうな顔になった。

「……それでさ。落ちて、体が地面につく前に……首が……首が木の蔦にひっかかったんだ」

 卓はそういって右手で自分の首をさすった。 

 

 

「グキッって音が頭ん中で聞こえたよ。……それで気がついたら……木の根元に一人で倒れてた」

 ボクは卓が何を言おうとしているのか分かっていた。でも聞きたくなかった。もう、もういやだ。

「一緒にいたはずの友達もいない。あたりも暗くなったし体もなんともないし。家に帰ろうと思って林を出ようとした

ら……」

「蔦が追いかけてきたの?」

 さっき卓が言っていたことを思い出してボクが聞いた。

「蛇みたいにくねくね追ってきて体に絡まるんだ。何度も、何度も。出ようとしたけどだめだったよ。 俺さ。弟とか、

父さんとか…母さんに会いたくて……」 卓はまたボクの頭をなでた。

 

「何度も何度も試して。でも結局だめで。おまけに誰か来るたび気がついてほしくて話しかけるのに誰も気づいてく

れない……。俺、本当は自分がどうなってたか、なんて分かってたんだけど。どうしても……分かりたくなかった」

 そこまで聞いてボクは震えながら彼に聞いた。

「卓……ずっとひとりだったの?」

 彼はこくん、とうなづく。

 

 ずっと。ひとり。

 

 でも、と卓の声が急に明るくなった。

「お前が来てさ。普通に話せるし、触れるし。おっどろいたよ」

 今度はボクが分かりたくない番だ。

「卓! ボクが、ボクが、もし計画通り『決行』したら卓と一緒にいてあげられるの」

 そういうと今度は卓が目を大きく見開いて、

「それは……。だめだな」

「どうして」

 

 彼は頭に手をやって「うーん」とかいいながらボクに何て説明すべきか迷っているようだった。

 

「俺がここにいるようになってから。実は1人『決行』したヤツがいるんだよ」

 ボクは驚いて卓を見上げた。

「たまに声とかは聞こえたけど……俺は一度も会ったことないな。『入り口への入り方』が違うと会えないみたいだ。

何でかは分からない。で、2度も縁起の悪いことが起こった木はご神木だったにもかかわらず切られちゃった」

 

 悟りきったように話す卓の顔をボクはじっとみつめる。

 おかしいよ。だって。卓はここにいるじゃないか。

 そして何も言わずに卓の手をとって存在をたしかめるように触ってみる。確かに人の手の感触がある。やっぱり、

やっぱり卓はボクをからかって遊んでいるんじゃないだろうか。

 

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2005/7/24 update

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