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「おかしいよ」
ぽつりと言った。
「やっぱりおかしいよ、だって卓はここにいるじゃないか。一緒に漫画読んだし、お祭りだって……」
そこまで言ってハッとした。
そう言えば祭りであいつ等に会ったとき、あいつ等は卓に気付いていなかった。
卓はボクの隣にいたのに。
うそだよ。そんな……気が付くとボクの目からはまた涙が溢れていた。
「まいったな。直人、お前泣き虫だなぁ。俺の弟よりやばいぞ」
そう言って指でボクの目じりをぬぐう。
「……お前いま幾つだっけ」
「……14……」
「そっかあ。俺さ、学校の先生になるつもりだったんだ。ひょっとしたらお前のクラスの鬼担任教師だったかもしれ
ないな」
ははは、卓は乾いた笑い声をだす。
……卓はもう大人になることができない。
……『その時』で止まったまま、彼にあったはずの未来はどこにもない。
ぞっとした。
ボクは、ボクは自分から……。
「ああ、あいつらにはかわいそうな事しちゃったな」
急に思い出したように呟くと。
卓は手のばして林に向って手招きをした。すると小さい、ホタルみたいな光が3つ泳いでるみたいにふよふよと
寄ってきた。
「あ、あの金魚たち……」
「うん、心配するな。こいつらは俺が送って行くよ。」
ボクは目を見開いてボクと卓の間をおよぐ金魚を見つめた。
きらきらしてとってもきれい……。
まるで小さい星空をみているみたいだ。
「直人、俺、もう行かなくちゃ」
え、ビックリして顔を上げる。
「どこに」
「……分からない。けど、もう『次』に行かなくちゃいけないのは分かるんだ」
そんなの……イヤだ。
そう思って卓の手をぎゅっとにぎる。
すると卓もボクの手を握り返してきた。
「『次』にいけるのは、お前に会えたおかげだと思う。……ありがとな」
ボクは思いっきり頭をふった。何もしていない。逆に助けてもらっただけじゃんか。
卓と会ってからまだ一週間もたってないんだ。
折角、折角友達になれたのに……。
「あのさ。直人……俺のこと覚えていてくれるか?」
ボクはその言葉にムッとして大声をあげる。
「ばかっ! 忘れるわけ……ないだろう」
「うん、そうか。ごめん」
卓はすこし照れたように笑った。
そしてボクの右手をとると手首の裏にそっと唇をおしつけた。
唇が離れたあと、そこには赤い痕がのこった。
「卓……っ」
べそをかきながら今度はボクが卓の左手をとる。
そして同じように手首の裏に口付ける。
卓の手首には青い痕が残った。
二人の目が合うと卓が言った。
「じゃ、またな」
一瞬だった。
初めて会ったときに見せた笑顔をのこしたまま、卓は目の前でフッと消えてしまった。
きらきら光る金魚たちも一緒に。
ピィィーーーーー……
神社の古いスピーカーからは今だにお囃子の笛の音が響いていた。
2005/7/26 update