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「なに? どうしたの、なんかいるの」

 ボクもあわてて林のほうを振り返って見る。でも、何も変わったところはない。

 彼は何も言わずにボクの手を強く握りなおしてそのまま自分の胸に押し付けた。

「卓、どうしたの」

 すると卓はようやく我に返ったのか、

「あ、ああ、直人」 そういってため息をつくと、ボクの顔をじいっと見つめて

「直人、お前、お前。すげえ、すごいな」

 ボクは言われている意味が分からなくてきょとんとする。

「なにが」

 

「いいんだ。直人、いこう。お祭り、行こう」

 突然、行くのを渋っていたはずの卓がボクの手を引っ張る。

「うん、行こう。あのね、一緒に金魚すくいしよう」

 そういうと卓は思いっきり笑顔でうなずいた。

 

くるのが遅れちゃったせいか中にはたたみ始めている出店もあった。

「あ〜、金魚すくいまだやってるかなあ」

卓と2人手をつないだまま走る。

「あ、まだやってる」

 

「卓もやろう」

「いや、俺は見てるだけでいいから。まずはお前がやれよ」

 ボクはお金をはらって『ポイ』(金魚をすくうやつだよ)をもらうと水槽の水面に向かって構えた。

 すると卓が、

「おわんは斜めにして、それからこれはこっちが表」

そういってボクがもっていたポイをひっくり返した。

「で、金魚を決めたら全部を水につけて一気にいけ!」

「うん。これっ」

 ボクは言われたとおりに狙った金魚をすくうとすばやくおわんに入れた。

「やった」

 

 ボクは出目金一匹と赤金2匹を無事にとって水を入れたビニール袋に入れてもらい、また歩き出した。

 照れくさいけど手をつないで。

 こんなに楽しいお祭りって、小さいころ家族で来て以来かも知れない。

 

「あ、次はあれ」

 そういってボクがパチンコ台をよこに倒したような台(ピンボールというらしいです)を見つけて走ろうとしたとき、

 

「おい、お前広瀬じゃないかよ」

 冷たくあざ笑うかのような声が聞こえた。

「なんだよ、熱出して学校休んでたんじゃないのか。ひょっとしてズル休みぃ」

 

!!!

 

 うそだろう。ボクは、ボクは一番会いたくなかった奴らに会ってしまった。

 見てくれだけは優等生の……あいつらに。

 

 そろいもそろって4人ともがボクを見つめてニヤニヤ笑っている。

 口の中が乾いてうまくしゃべれない。足と手ががくがく震えてしまったのが分かる。

 

「直人、大丈夫か」

 卓が心配そうにボクの顔をのぞく。

「ひょっとしてこいつらがあの『優等生』なのか」

 そう聞かれて半分泣きべそをかきながら卓を見上げる。

 

「広瀬、ちょうどいいとこで会ったよ、ちょっと使いすぎちゃってさ、お金かしてくんない?」

 気がつくとあいつら4人はボク等二人を取り囲むようにして立っていた。

 

 どうしよう。どうしよう。震えはピークに達した。怖い。でも!

 

「卓、卓。逃げて、一緒にいたら卓までけられちゃうよ」

 ボクは小声でそう言う。 卓には絶対に怪我なんかさせない。 守らなくちゃ。

 

「直人、あいつ等に言うんだ。ここじゃ他の人もいるから『林』に行こうってな」

 

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2005/7/16  update

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