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(21)
「アルド王子、以上が今回ご招待した姫君たちのお名前でございます。先ほどお話した席順とお名前を間違え
にならないように」
「何度も言うな。わかっている」
アルド王子は晩餐会を前にサガ宰相と綿密なる打ち合わせを行っていた。
「すべての姫君たちには一週間ほど滞在いただきます。その間にアルシャのキリヤ様のことはお任せを」
「わかっていると思うが。今回のことはあくまでも同盟国アルシャの姫君であるルリナを救うための手段であって
お前達が望むような他意はない。わざわざ小国の姫や地位の低い貴族の娘を選ばせたのはそのためだ」
それを聞いてサガ宰相は小さくため息をついたが『いや、皆なかなかの美姫であった。王子の目に留まる
ものがいないとはかぎらない』とわずかな希望を捨てずにいた。
「晩餐会の前にバーサと話がしたい、呼んでくれ」
「は、バーサはすでに他の医師たちと打ち合わせをしているようです。晩餐会のあとごゆっくりお時間を
とられては」
サガ宰相は王子になにも気取られぬよう、あらかじめ何度も何度も心で反復した言葉を伝えた。
「そうか、仕事熱心だからな、あれは」
どうかこれ以上バーサを呼びませぬように、サガ宰相の願いが通じたのか王子はおとなしく席を立った。
*********
「タイラ、バーサの様子に変りはないわね。ダリ、お茶の用意はできていて? 一番上等のルタ(桃)の葉のお茶よ」
晩餐会が無事に終わり自分の部屋へもどったルリナ姫は大急ぎで晩餐会に着ていたドレスよりも上等なドレス
に着替え、指示をだしていた。
「もうそろそろサガ宰相がバーサのことを報告しているはず。嵐になるわ、きっと」
「姫様、ダリは反対です。私が事情を説明いたしますからどうか姫様は奥のお部屋へ。今はバーサ様が動けないと
いうのに……またこの間のようなことになっても止めて下さるかたはいないのですよ」
ダリの頭には姫の首に手をかけた恐ろしいアルド王子の顔がよみがえっていた。
「いいえ、しっかり向き合って話さなければ。バーサは……バーサは私のためにあのようなことに なったのです
もの」
「姫様」
しっかりした言葉にダリは驚いた。
子供のようにわがままを言っていたのはつい今朝がたではなかったか。
今のルリナ姫の顔はすっかり大人の女性にみえた。
「それとダリ、何があっても『あのこと』はアルドに言ってはなりません。バーサが自分から話したいと思うまでは。
そのためには早くなおってもらわなくてはね」
ダリは目を潤ませてルリナ姫を見つめた。
「姫様、大人になられて……」
するとルリナ姫はぷっ、と頬をふくらませた。
「ダリ、本当のことを言うと私がこうするのは立派な理由からではないの。私は……私はアルドを喜ばせたく
ないだけかもしれないわ。本当のことを知ったらアルドは小躍りするに違いないもの。いじわるなのよ私は」
そうしている間に、廊下から足音が聞こえてきた。
どしどしと大またで歩く音、その後につづいて数名がしたがっているようだ。
ルリナ姫は扉の前にひざまずき、しゃんと背を伸ばすと、
「お見えのようね」
そうつぶやいて平伏した。
*********
「なんだと」
「今朝、奥庭でルリナ姫が襲われました」
晩餐会が終わり、『火急の報告』があると宰相に促されて奥の間へとやってきたアルド王子はその報告が
職務室でなされないことに胸騒ぎを覚えた。
そして受けた報告がこれである。
「しかしルリナは晩餐会に出席していたはず。怪我はなかったようだな。襲ったものは捕らえたか」
「はい、捕らえて地下牢へ閉じ込めてあります。ですが、捕らえられたときに負った怪我と自身の使った毒に
あたって今は口が利けぬ 状態です」
頭をたれたまま報告を続ける宰相にアルド王子はだんだんとむかつきを感じはじめた。
「サガ、いい加減にしろ。何があった、なぜすぐに報告しなかった」
2006/11/5 update
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