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(19)

「サガ、準備はできたか」

 アルド王子の問いかけにサガ宰相は頭をたれて返答する。

「ぬかりなく」

「その後、アルシァでは何か動きは」

 すこし声を潜めてアルド王子はなおも問いかける。

「第2王子の母君、キリヤ殿が何らかの動きをしようとしているようです。まだ詳しい報告は参りませんが」

「これ以上アルシァの問題に巻き込まれるわけにはいかない。父上を煩わせることは避けたい」

 サガ宰相は深くうなずいて同意した。

「引き続きルリナを頼む」

 そう言いおくと部屋をでていった。

 

************

 

「バーサ、どう? きれいな花が咲いているでしょう、ここは私が見つけたのよ」

 ルリナ姫は昨夜の騒ぎを忘れてしまったかのように城の奥庭ではしゃいでいた。

 最初の頃は『姫君』そのものという感じで大人びた印象だったルリナ姫であったが

いまではすっかりバーサに心を許し、16歳という年齢よりもはるかにおさなく見えてしまうほどの姿を

みせるようになった。

「姫様、そろそろ部屋に戻って朝食にいたしましょう」

 そうダリが促しても散歩をやめる気はないらしい。

「いやよ、最近私の周りは兵士ばかりなのですもの。いつも見張られているみたいで嫌だわ」

「ルリナ姫、ダリの言う通りです。かなり奥まで来てしまいましたし、そろそろ戻りましょう」

 バーサに言われてルリナ姫がしぶしぶうなずいた時。

 

ジキジキジキージジジジジー

 先ほどまでバーサの肩におとなしくとまっていた黒い小鳥、アンドレが騒ぎ出した。

「ルリナ様っ、危ない」

 バーサがルリナ姫をつきとばすと、姫がいた場所に小さなナイフが突き刺さっていた。

「ルリナ様、こちらへ、ダリ! 伏せて」

 そういいながらルリナ姫の手を引いて木の陰に押し込んだ。その間にもナイフは絶え間なく飛んでくる。

忍者みたいだ、どこから飛んでくるんだ   (***グリーン文字は日本語です)

 今度はダリの手を引っぱって低めの木々の間に隠した。

 

ジジジジジーッ

 

 今度は金色のオスカルも加わってすぐそばの木の上に向かって騒いでいる。

あそこか

 バーサはとっさに腰につけていた短剣を取り出して投げつけた。

 

 すると枝がバキバキと折れる音が聞こえ背の低い、頭にターバンのようなものを巻いた男が落ちてきた。

が、着地してすぐに横に転がって木の陰に隠れてしまう。

「驚いたな、お前、鳥使いか」

 低くせせら笑うような声が響く。

「城内でナイフとは物騒ですね」

 バーサが落ち着いた声で応酬する。

「お前には用はない。そこのお嬢ちゃんにだけ用があるんだよ」

「ナイフを振り回すのが好きなヘンタイにお任せするわけにはまいりません」

「なんだと」

 ジャキ、という音がし、今度は短剣を両手にもって茂みから飛び出してきた。

「いやーーーーっ、バーサ、逃げて」

 ルリナ姫の悲鳴が聞こえるがそんなことにかまっていられない。

 ぎりぎりのところで剣をかわし、男の右手首を取って思い切りひねった。

ぼきり。

 鈍い音が響く。

 ぎゃっと声がして、剣を大きく振り回す音が続いたが、ふとその音が止まる。

 バーサと男は向かい合い、にらみ合って動かない。男の右腕は妙な方向に曲がっていた。

「こいつは計算外だ。こんな使い手だったとはな。女みたいなやつだと思ってぬかったぜ」

「……こう見えても『ジェット・リー』ファン暦10年ですから」

「なにわからねえこと言ってんだ」

 男は飛び退ると左手で器用にナイフを投げつけてくる。

「彼女に何の用です」

 応戦しながらもバーサが問いかけると、

「さあな、攫ってかわいがってやるかな」 そう答えて下卑た笑いをした。

 それを聴いた瞬間、バーサは目の中が真っ赤になるほどの怒りがこみ上げた。

 自分が切りつけられているのも気づかぬままに、男の後ろに回りこみ瞬時に左手をひねり上げた。

 鈍い音がもう一度響き、男はどさりと倒れこんだ。

許さない、あんたみたいな男……許さない

 バーサは奪ったナイフで男の足の腱を切って見下ろした。

 

 男がバーサとの戦いに敗れたのは明らかだ。なのにうめきながらも下卑た笑いが続いている。

 それに気がついたバーサはとどめに男の股間めがけて踵を振り下ろした。

 

 

「ルリナ様、ダリ。もう大丈夫ですよ」

 バーサの足元には先ほどの男が泡を吹いて倒れていた。

 

「バーサ、ああ、バーサ」

 ルリナ姫が駆け寄ると。

 わき腹を押さえたまま、今度はバーサが倒れこんだ。  


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2006/9/10 update

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