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(18)
あわただしく日々が過ぎた。
いよいよ明日は各国各地方の姫君や貴族の娘、総勢12名がやってくる。
相変わらず大臣や宰相、衛兵や女官たちそろって姫君たちを迎えるための一通りの準備であわただしく、
専属医師となる バーサも城にこもって何かと忙しい日々を送っていた。
そんなある夜、バーサの部屋の扉をたたくものがあった。
「バーサ様、バーサ様」
「ダリ?」
バーサが扉を開けるとダリは腰をかがめて礼をしてから、
「バーサ様にご相談が」 困った顔をしてつぶやいた。
「ルリナ様になにか」
ダリにせかされるようにしてルリナ姫の滞在している部屋に向かうと、彼女は溜息をつきながらバーサに
こぼしはじめる。
「アルド王子が他国から姫君たちお呼びになったと聞いてからルリナ様ふさぎ込んでしまって」
「ああ」 バーサもうなだれた。
元気のないルリナ姫の様子をみてバーサも心配していたのだ。
「先ほど明日の晩餐会のためのお衣装を選んでおりましたら、髪型が服に似合わないとおっしゃって」
ダリは自分の手をぎゅうぎゅうともんだ。 その指先は針仕事をしたすぐあとのようにところどころが
赤くなっている。
バーサも明日は各国の姫たちの歓迎の催しがあると聞いていた。晩餐会とはそのことだろう。
「申し訳ありません。今まで一度もこんなことはございませんでしたのに。わたくし、困ってしまって。もう……」
「急ぎましょう、ルリナ姫のことろへ」
バーサはダリを元気付けるように、にっこりと笑った。
ルリナ姫は部屋の中央に置かれたソファーのに顔を押し付けて声を潜めて泣いていた。
その後ろにはルリナ姫の主治医タイラが控え、バーサを見ると悲しげに微笑んだ。
「ルリナ様、どうなさいました」
光沢のある薄い紫色をしたドレスを着てルリナ姫ははらはらと涙を流して顔を上げる。
その顔をみてバーサの胸は痛んだ。
「夏……」
問いかけて、いや、と頭を振る。
ふと下をみると、ソファーのそばにあるローテーブルにはブラシや髪飾りが散乱している。
「ダリ、貴方達の国では男性が女性の髪を触ってはいけない、という決まりごとはありますか」
「は? いえ、ございませんが……」
「では」
バーサはブラシを手にとって微笑むと、
「髪を上げてみましょうか」そう言って姫の後ろに回った。
「姫様、とてもすばらしいですわ」
ダリがうれしそうに姫を見つめる。
「ね、ねえ、バーサ。これはなんと言うの。初めてだわ、こんなの」
ルリナ姫も頬を上気させて手鏡に映った自分を見つめている。
彼女の髪は三つ編みを上手につかって結い上げられていた。おまけにドレスと同じ色のリボン飾りが
ところどころにピンでさしこまれ、とても華やかに見えた。この飾りもバーサが即席で作ったものである。
どうやら『三つ編み』という日本では普通の髪型がコチラでは新しいデザインに映ってみえるらしい。
ルリナ姫の
喜びようといったらなかった。
「バーサ、明日もお願いね、きっとよ」
すっかりご機嫌の直ったルリナ姫はひとしきりはしゃいでようやく眠りについた。
「バーサ様、有難うございました」
ダリは心をこめてバーサに頭を下げた。
「とてもおどろきました。バーサ様がこんなこともお出来になるなんて」
「ダリ、次は貴方の手の治療です。見せてください」
するとダリは慌てたように手を隠した。
「おそらく力を入れてピンをいじったせいで腫れたのでしょう」
そういうとダリは観念してため息を付き、それからおずおずと手を差し出した。
2006/9/3 update
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