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(17)
「私が、ですか」
「そうだ」
王子の部屋に呼び出されたバーサは急な命(めい)に驚いていた。
「もうすぐあちこちから王族や貴族の娘達がやってくる。お前にはその者達の専属医師になって
もらいたい」
「ですが、城には主治医のサライ様がいらっしゃいますし、軍医殿もいらっしゃいます。姫君たちにはきっと
それぞれの主治医どのがついていらっしゃると思いますが」
「バーサ」
アルド王子は飾りの付いた立派な椅子から立ち上がりバーサのそばに近寄った。
「お前も知ってのとおりこの国の医者はそんなに多くはない。また各都市によって医者の知識にへだたりが
あると聞いている」
「確かに」 バーサはうなずいた。
「それぞれの主治医と情報を交換するいい機会になるだろう。お前は他国からきた者だがすでにこの城の
作法も知ってる。間に入ってことを進めるには適任だろう」
「なるほど……」
バーサもこの国では他国人である。同じく他国や、そして遠方からきた者達の間に入るにはちょうどいい
と思われた。
するとバーサの表情から了解を感じとったアルド王子は満足そうに微笑んでから付け加えた。
「ついてはお前の部屋を新しく用意させた」
「は? いえ、こちらに泊まる時にお借りしている部屋で十分ですが」
今にも『やっぱり止めます』と帰りかねないバーサをみて脇に控えていたサガ宰相が答えた。
「バーサ。お前は各国の姫君や貴族の娘を診るのだ。それなりの部屋と身なりが必要だ。よく考えるように」
バーサは少し驚いた表情を見せたが
「はい」 と小さい声で答え、うなずいた。
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「貴方がそんなにもわが国の医術について考えてくださっていたと存じませんでした」
バーサが部屋を辞した後、サガ宰相が呆れ顔でつぶやいた。
「なんのことだ」
「あのように言われては逃げられませんな」
「ふん」
アルド王子は眉をひそめ、少し硬い表情をしていった。
「なぜだろうな、地位や名誉を与えても喜ばないな、あれは」
「当然です。地位や名誉に目がくらむようなものは医師にはなれません」
答えながらサガ宰相は王子あての書類をがさがさ言わせてあからさまに職務を促した。
「医師として、か。理由はそれだけだと思うかサガ」
アルド王子は机の上においてあった小箱を手に取った。先日ルシード王子の部屋から持ってきたものである。
「あの時、胸中のルシードを出してやるように言っていたが……お前の方こそ何をしまいこんでいる」
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「パリカール、私達これからしばらくお城にいなくちゃならない」
「ブーッ」
先ほどアルド王子から命をうけたバーサはたった一人(一頭)の家族であるパリカールに話しかけていた。
「明日一番でヒンドゥ老師のところへいってこの事をご報告してそれから患者さんの家を回って……そうそう、
自分用にとっておいた瓜も食べてしまわないと」
「ブヒッ」
「……お前の声がブタのように聞こえるのは私だけなのかな。日本のロバもそうだったっけ」
笑いながらバーサはパリカールのたてがみをそっとなでた。
「ずっと王子のそばにいるなんて。私は大丈夫だろうか」
2006/6/14 update
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