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 真吾さんと話をしつつ、一方で作戦をねる。

 まず、私はいつでもダッシュ爆走できるように酔っ払わないようにする。

  なので未練はあるけど冷酒はここまで。

  真吾さんがちゃんと歩ける程度、それくらいまで飲ませて気持ちよくなったあたりで話す。よしっ。


  あ、その前にお勘定すませておかなくちゃ。

  なんてったってすぐダッシュ。ダッシュ。


「もう飲まないのかい」

「いえ、真吾さんこそ、すすんでませんね。やっぱりお口に合いませんでしたか」

  あちらも酔わない作戦とみた。 こりゃいけない。 飲ませるぞ。

「いや、そんなことはないが」

「それなら、まだいけますね。ハイ」

  なんとか心地良く酔ってもらわないと。そう思ってぐいぐいついでみる。

  すると真吾さんはくすりと笑って、

「君は……私を酔わせるつもりかな」

  ぎっくーーーん。 

 いえ、いえ、泥酔は困ります。 ……歩ける程度のほろ酔いが希望です。

「あの。冷酒は苦手でしたか」

 動揺をかくすため恐縮してみせると、

「いや、いいんだ」

  そういって真吾さんは飲みつづける。

  そろそろ二時間たったろうか。居酒屋では立ち去るのにベストな経過時間。

  トイレに立ったついでにお勘定をすませ、これで準備は完了。

  いよいよだ。



「あの。真吾さん。私、お話したいことがあるんですが」

「そうか……。じゃ、じっくり聞きたいな。いこう」

「は?」

  真吾さんはぜんぜん酔ったそぶりもなく、私の手を引っ張って歩いていく。

  お勘定済みなのはとっくにお見通しか。 店をでて大通りへたどりつくとタクシーをとめる。

「し、真吾さん、私の話は、あの、その……」

「いいから。」

  いや、よくないって。

  あわあわしてたら、もうタクシーが走り出す。

  しまったー! どうしよう。私の作戦が、作戦がぁぁぁぁぁ……。

 タクシーの中でも、どうしたものかとおろおろしていると、真吾さんが手を握ってきた。

「帰りは店の近くの駅まで送る。君が答えたくないような質問はしないつもりだ。だからもう少し

一緒にいてもらえないか」

 見抜かれてる。 こうなるともう、うなずくしかなかった。

 




  真吾さんにつれてこられたところはとても高級感のあるバーだった。

「すごい。すてきな所ですね」

おもわず店内を見回してしまう。  

 で、非常口はどこかしら。

「数年前までレストランだったんだが、オーナーが自分の趣味でバーに変えてしまってね。

父のお気に入りの店なんだ。いまでも家族で利用している」

「ご家族で、ですか」

 

「いらっしゃい。真吾さん、ひさしぶりね」

  そこで私たちを迎えてくれたのは、すごく上品で綺麗な女性だった。

「紹介しよう、彼女は香さんといって、この店のオーナーだ。香さん、彼は私の友人で寺崎くんだ」

「はじめまして。寺崎です」 どういう態度をとっていいのか、ただ頭をぴょこっとさげる。

「あら。素敵なかたね。真吾さんがつれてくるなんてよほどのお気に入りのご友人なのね」

 香さんが意味ありげに私を見て微笑む。 

 その表情がとても色気があって、私は自分の顔が赤くなったのがわかった。

 

 せっかく香さんが奥の夜景のみえるいい席に案内してくれようとしたのに、真吾さんは

「いや、久しぶりに香さんとも話がしたいから、カウンターでいい」 なんていってる。

 またやられた。 第三者がいると「女だ」なんて告白しにくいじゃない。

 年の差かなぁ、私の考えなんてきっとお見通しなんだ。 

 もっとも真吾さんはちがうことを想像していると思うけど。

 いや、このままでいいのかもしれない。 やっぱり。 なにも言わないままで。 

 

 真吾さんのそばにはいたいけど、ばれるのはこわい、いや、ちゃんと言わなくちゃいけないんだけど

「なーんだ」とあきれられるかもしれない。ずるいけどそれはやっぱり嫌だ。

 そんなことをぐるぐる考えながら、自分の身のおき方がわからずそわそわしてしまう。

 その緊張を少しでもほぐそうと真吾さんが配慮してくれるのもわかる。

 真吾さんはこんな私といて楽しいのだろうか。

 

 ウーロン茶ばかり飲む私をみかねたのか、香さんが

「軽めのカクテルかなんか作らせるわ。それならいいわよね。 まっててね」

 そういってくれた。

「私ももらおうか」

 真吾さんが言う。

「まかせてちょうだい。オリジナルをつくらせるわ」

 

 すこしたつと真っ赤できれいな透明感のあるカクテルがでてきた。

「こっちは寺崎さん」

 そして真吾さんのはこれまたきれいなレモン色のカクテルだった。

「これは真吾さん」

「寺崎さんのカクテルは”Mr. Robber”(泥棒さん)というの」

 香さんはちゃめっけたっぷりに笑っていった。

「ほう、すると私のは”Chaser”(追っ手)かな」

 真吾さんがグラスをかかげる。

「いいえ。残念でした。あなたのは”Mr. Zenigata”よ」

 その瞬間、香さんのベタなジョークに私は腹をかかえて笑い出してしまった。


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2005/1/27 update

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