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 その日から2週間が過ぎた。

真吾さんと一緒に夕食を食べたことは夢のむこうの世界だったように感じるようになっていた。


  今日の仕事が終わって、自宅の最寄駅につくといつも利用している南口へむかう。

すると先にある改札口のよこにどこかで見たような人影がある。

「うそっ」


  どうみても真吾さんだった。

  しかし、待てよ。そ、そういえば一緒に飲んでいるときうっかり使っている沿線と最寄駅を教えてしまっ

たような気がする。私は馬鹿だ。まずい。

さらにまずいことに今の私は『女』だ。ばっちりスカートはいてるしメイクもしてるし。

ど、ど、どうしよう。

 幸い彼はまだ私には気づいていない様子、とっさに側の通路をまがって北口に向った。

  北口をでて自宅まで爆走したため、家についても動揺は収まらない。

  心臓がとびでそうなくらいバクバクしている。

「恵ちゃーん、おっかえりぃ。あれどうしたの」

  呑気に出迎えた姉が私が真っ青になって動けなくなっているのを見てあわてて聞いてきた。

「ど、どうしよう。おねぇちゃん。駅に駅に真吾さんがいた」

「へぇ。真吾さん……ってあのときの人。うそ、恵ちゃん、住所おしえてたの」

「まさか、あ、つい最寄り駅を教えてしまった気がする。で、でも、いや、彼はべつに私をまってい

るとは限らないよね、誰か知り合いと待ち合わせでも……」

「って、恵ちゃん、こんなローカルな駅で待ち合わせなんてあるはずないじゃない」

「だよね、やっぱりどうしよう」

「うーん。どうかな、もう一回ちゃんと会って、本当のことを言ってみたらどう。でないとこの待ち構え

攻撃は続くとおもうよ。金持ち強気攻めにありがちなパターンよ」

  ぞぞぞっ。姉がそういうことをいうと思わずあらぬ想像をして『鳥肌』がたってしまう。

「そうする」 ここはきっちりと決着させねば。

  自分の部屋に駆け込み、きているものを脱ぎ捨てると胸がわからないようにさらしをきっちりまいた。

  そしてあの時着ていたスーツとシャツ他一式をとりだし、いそいで身に付ける。

  黒いバッグに、男物のハンカチと財布、携帯電話だけを突っ込む。

  したくができると駅まで走っていった。そこまでするつもりはなかったのに、夢中だった。

「あたしやっぱりもう一度会いたかったのかなぁ」。そう思うと胸がちりっとする。

  そしてまた北口からはいり、南口へと向った。

「まだ、いるかな……」

  おそるおそる改札口に目をやると、真吾さんはまだ立っていた。

  そして顔をあげて、私を見つけた。
 

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2004/11/15 update

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