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『食欲がない』とかいいつつ、でてくる料理のあまりの美味しさにそんな言い訳はぶちとんでしまい、
真吾さんから「よかったら追加注文するかい」。なんて言われる始末。
「はいっ」
思わず見えないしっぽをふってうなずいてしまう自分がなさけない。
でもやっぱり気になってつい言ってしまった。
「ごめんなさい。食欲ないっていってたのに。あんまり美味しいから食欲もどっちゃて」
気まずくうなだれていると。
「せっかく食べるんだからまずそうにたべられるよりもおいしそうに食べてもらったほうが
うれしいよ」
そういってくれた。きらきらスマイルつきで。
ほにゃぁん、まぶしい。本当にいい男だよ。『女』忘れてほえたくなる。
しかし、『会員制料理店』ってことは、この後のお会計を考えると冷や汗もの。
お姉ちゃんがそれなりにおこずかいをくれたけどそれで足りるかしらん。
とにかく、絶対、絶対,絶対割り勘にしてもらう。私はそう決めていた。だってそうでないと……。
そこで適当なところを見計らってトイレに立った私は、給仕をしてくれた女性をみつけて、
「割り勘にしますから、お勘定の時にはそれでお願いします」といっておいた。
ところが。
ええ、「かしこまりました」って言ったじゃない。 さっき。
それなのに。 帰るときにまったく支払いをする様子がない。
「あのお勘定は……」
ここがさらっといかないとまずいのだっ。
「心配しなくていいよ。今日は私から誘ったんだから」
しまった。心配した通りだ。やばい。非常にやばい。
そして恐れていたお決まりのセリフがでてしまった。
「それなら今度は君におごってもらうとしよう、いいね」
だーっ、それを言われては困るから「さらっと」払いたかったのだ。
まったく
姉が聞いたらよだれを流しそうな『その世界』のお約束、爆裂展開中である。
そんな機会はないよ、と心で突っ込みつつ、しぶしぶうなずいた。
自分が『女』だったら遠慮なく満面の笑みをみせておごってもらっただろうに。
さらには『おごってもらう』ためにどうしても携帯電話番号とメールアドレスを教えてほしいという。
でなければ、家までおくると脅してくるし本当にしつこくて困ってしまった。
ああ、誰か。 女のときにこれくらいしつこく口説いてよ。全く。
「じゃぁ、電話番号教えて下さい。かならずご連絡しますから。あ、でもお誘いするのは給料日あと
にさせてくださいね」
そういうと彼はあきらめたのか溜息をついて、「絶対だよ?」と何度も念をおされた。
振り切るように駅の改札口で彼と別れたあと、思わずこっそりその背中が見えなくなるまで見送った。
「さようなら。さようなら。そして食い逃げになってごめん」
あれ。なんでだろう。切ない。75Aカップの胸がキリキリするぜ。
そんな思いをしているというのに。後ろから姉が飛び掛ってきた。
「みたわよーん。恵ちゃん、彼は誰よ。なんて素敵な人なのよ〜。ねっ、何があったの、話をしてくれ
るまで今夜は寝かさないんだから」
「お姉ちゃん、わかったから。放して」
姉の車にのりこむと溜息をつきならがいった。「お姉ちゃん、もう2度とこんなことごめんだからね」
「え、さっきの彼とはもう会わないの」。驚いた顔をして聞いてくる。
「私とお付き合いしてどうするのよ。私は女なのよ。かんべんしてよ」
思わず私は辛い顔をしてしまったのだろう、さすがの姉もちょっと大人しくなった。
それでもこりずに「もったいない」と呟いていた。
その夜家に帰ると本当に全部話すまで寝かせてもらえなかった。
全部聞くとすぐ「もう。やっぱりイイ男って想像どおりよね、創作意欲が脳内をかけめぐっているわ」
などとわけの分からないことをほざいてパソコンにむかって激打していた。
姉から解放され、やっと入れた湯船につかりながら「私、男にうまれたかったかも」初めてそう思った。
今までそんなことなかったのに……。