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「この人、本当に誰かきてくれるまでどきそうにないな。困ったな」

  だいたいバーの雰囲気を掴んでこい、としか言われていないし、話し掛けられてのこのこ付いて行く

気なんてない。

 仕方ないので男を観察することにした。とほほ。みればみるほどかっこいいな。

  びしっと決まった紺のダブルのスーツ。

  引き締まってがっちりした体躯に180cm以上はありそうな身長。

  なんといっても顔がいい、もったいないわよ。もう。

  全くおねえちゃんがいう所の『お約束』どおり。

  一つ違うのは私は女だと言う事。はぁぁ。

  せっかく話し掛けてくれたのに。私は絶対あなたと恋愛できないのよね。

  切なくて思わず溜息をついてしまった。

「私がいると、困るのかい」

  溜息に気がついた彼が心配そうに話し掛けてくる。

「いいえ、困るだなんて。そんなことありませんよ」

「本当に」

「ええ」おもわず得意の必殺スマイルを浮かべてしまった。女の子にはウケがいいけど……。

  あれ? うれしそう。

  彼にもウケがよかったようだ。このスマイルは男(ゲイ)にも有効と。こんなバカなこと考えてなきゃ

やりきれない。

  そしてやっと9時になった。腕時計で時間を確認するしぐさをして「ちょっと失礼」といって席を立った。

いったん店の外に出て電話をする。

「恵ちゃん。どうどうどう。楽しんでる」

  能天気な姉の声をきいたらチカラがぬけた。

「そんなわけないでしょう。ねぇ、悪いんだけど田村さんこっちよこしてくれない」

  一応誰にも話を聞かれないよう後ろをチェックしながら話す。

「えーなんでぇ?」

「うんと……。ちょっといま抜けられそうにないから助けてほしい。待ち合わせしてたって感じできてくれる

とありがたいんだけど」

  すると姉は興奮した声で「ひょっとして誰かに声掛けられたの、ねぇねぇねぇ、教えてよう」。なんて

人の話を聞いてないことを言う。

「あとでたっぷり教えてあげるから。早く御願い」 イライラして言うと、

「だって無理だもの」

「無理ぃ」おもわず叫んでしまった。

「田村君、さっき急用が出来たとかでかえっちゃった」

「はぁぁ。もう約束とちがうじゃないの」思わず携帯をぶったぎる。

  しかたがない、待ち合わせ場所変更と言う事ででるか、そう思って振り返ると、なんとさっきの彼が

立っていた。

  聞かれてた、どこから。少なくとも途中までは背後にも気を配っていたはず……。

  あせるあまりフリーズしていると、

「あ、すまない。全部聞いてたわけじゃないんだ。大きな声が聞こえたから何かあったかと思って」

  心配してきてくれたんだ。そう言えば叫んだっけ。

「ああ、そうですか。すみません。いえ、その」

  その後の会話をきかれたとなると約束がだめになったと思うだろう。しまったなぁ。

「あ、あの約束の人が急に来れなくなったって言うものだから……」しょうがなく答えた。

「それは私にとって吉報とうけとっていいかな。もしよければこれから一緒に夕食でもどうかな。

それとももう済ませたかい」

「ええ、ああ、その、いえ」

「なら決定だ」。彼はにっこり微笑んだ。キラリーンと音がしそうな笑顔で。
 

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2004/11/15 update

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