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「恵ちゃんのばか、ばか、ばかあ〜!!!」



「仕方ないでしょう。もう返しちゃったんだから」 

 



 お姉ちゃんから飛んでくるムーミンパパやスヌーピー、キティちゃんのミニぬいぐるみを軽くキャッチしつつ部屋に入る。

 全く。ついさっきまで『姉』だったお姉ちゃんは『作家』になったかと思ったら急激退化して『お子様』になってしまった。

先日タキシードを着て家まで帰ってきたことを言い忘れていた(というか言わないで済ませたかった)私は、ついうっかり

姉にそれを話してしまった。


 その結果がこれである。


「タキシードは今日宅急便で送って返しちゃったの。で、借りてた服は申し訳ないけど弁償させてもらうから」

「ちがうもん、ちがうもん」

 ただ今お子様バージョンのお姉ちゃんは思いっきり頭を振って、

「失恋してお目々を潤ませた、んでもって疲れちゃって物憂げな、そんな恵ちゃんのタキシード姿が見たかったんだもん」

 またワケの分からないことを。

「なのに写真すらも撮ってないなんて〜!!!」

 だからどこの世界にそんな状況で写真撮るヤツがいるのよっ。

「また後でスーツかなんか着てあげるから」

 わざとため息をついていうと、

「いやっ」

 そう言って頬を膨らませて背をむける。

 はいはい、そのお顔は男性には有効かもしれませんが、私は妹ですので。
 
 もうほっとこ。

 



「恵ちゃん」

 



「んー」

 びくっ。

 お姉ちゃんの目が燃えている。


「もう我慢の限界。タキシードの上をいくとなると、やっぱり燕尾服しかないと思わない」

「は?」お姉ちゃんがいつ、いったい何を我慢したってゆーのよ。

 お姉ちゃんは急に元気になって立ち上がると、こぶしを突き上げて叫んだ。

「そうよっ、燕尾よっ、燕尾しかないのよ! 恵ちゃん、週末空けておいてね。黒、白、色もの、ぜーーーーんぶ着ても

らっちゃうんだから」

 急な変貌に驚いているうちに、お姉ちゃんは携帯をとりだし、電話を始めた。

「あ、田村君? 亜紀でーす。御願いがあるの。明日の夕方までに最新式のデジカメの各社カタログそろえて持ってき

て!そ、次の読みきりの資料だから。じゃね」

 かわいそう。また田村さんに適当なこと言って。

「ふん、去年買い替えたデジカメなんかじゃだめよ。最新式のカメラで撮るのよ〜。恵ちゃん、イン、燕尾!」

 あーあ、また暴走してるよ。

「ええっと。お姉ちゃん、週末用があって私はいないから」

「そうとなったら衣装の手配しなくちゃね〜」

 人の話聞いてないよ。タカラヅカじゃあるまいし。なんで燕尾なんか。

「お姉ちゃん、あのね……」

「恵ちゃん、あたしも一緒にドレスなんか着ちゃおうかなっ。で、恵ちゃんと一緒に写真撮るの〜。いやーん、

もう結婚式みたい」

 うおっ。もっと危ない妄想爆裂中だ。どこの世界に姉妹でコスプレのあげく結婚式状態にならなくちゃなんないのよ。

 その後のお姉ちゃんときたら何を言ってもきかず、ハイテンションをキープ。

 金曜日の夜からどっかに避難して月曜日まで帰ってくるのやめようとかひそかに決意。

 ……どうも最近すべてに『逃げ腰』になってきた気がする。

 

 

 

 

 おかしい。

 ここ2、3日、また誰かに見られているような感じがする。 そしてこの勘は外れていないかな、たぶん。

チッ。

「またお姉ちゃん誰かにフェロモンふりまいたのかなあ。こんな時に」

 さすがに今みたいに会社に来ている間は感じないけど。

 明日は土曜日。 ハイテンションお姉ちゃんはいまだ燕尾服、燕尾服とうるさいので今夜からどっかに脱出しよう

と思っていたのに。

「一人にするの危ないよね、この間のへっぽこ探偵のこともあるし」

 

 

「ああ、寺崎君、ちょっと」

「社長?」

 社長はあわてたようにこっちへ向かってやってくると、

「明日なんだけどね。休日出勤たのめるかな、急にパーティに呼ばれてね、同行してほしいんだけど伊藤君と二人で

頼むよ。詳しくは後で招待状をみせるから」

「は、はい」

 急な話。こんなこと初めてだ。 うーん、お姉ちゃんが心配だけど田村さんにでもきてもらうとするか。

……とは思いつつ、明日『ねばならぬ』用事ができたことで少しほっとしてしまったのだった。

 

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2005/7/2 update

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