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 夜の冷たい風が頬をなでる。

 気がつくと人影もなく、そうなると駅のそばの公園も不気味に見えてくる。と、いうか暗闇の中一人ブランコをこいで

いる私は他の人から見たら絶対あぶない人だ。

 

「そろそろ帰らないとやばいかな」

 そうつぶやいて時計をみるともう10時をすぎていた。

 

 結局、合コンには行かなかった。

 お姉ちゃんは「男でできた心の傷は男でなおすのよ」なんてワケ分からないことをいっていたけど

真吾さんと最後に会ったのはほんの2日前なのだ。じっくり失恋気分もあじわっていないのにさっさと次の男性

なんて考えられるわけがない。

「真吾さんに会う前にもここで時間つぶしたんだっけなあ〜」

 あーあ。思いっきりブランコをこぎたいのに成長しすぎた足がじゃまでうまくこげない。

 

 それに伊藤さんには何も言わずに帰ってきちゃったしああ、明日どうしようかな。気が重い……。

そんなことを考えていると、

 

ぱたぱたぱた……
 

「ん?」

 足音が聞こえてきて振りかえると、

「恵ちゃん」

 名前を呼ばれると同時にお姉ちゃんが後ろから飛びついてきた。

「うわっ、お姉ちゃん? どうしたの」

 危ない、危ない。お姉ちゃんだと気づくのがもう一拍遅れていたら投げ飛ばすところだった。

「どうしたのじゃないわよう」

 今にも泣きそうな顔で私を見る。

「伊藤さんって子からまた電話があったの。恵ちゃん帰ったらしいっていうのにぜんぜん家に戻ってこないから」

 あ、いけない。心配かけちゃった。
 

「どっかの酔っ払いにからまれて、相手ぶっ飛ばしてるんじゃないかと思って心配で」
 

 襲われてるんじゃないかと心配してほしい。

 ……お姉ちゃんを投げ飛ばしそうになったことは黙っておこう。

 

「恵ちゃん、ごめんね。私とちがって恵ちゃんは切り換え苦手だもんね。もう無理して合コンでなくていいから」

 そういうと私の肩に頭を乗せた。伝わってくる体温が熱い。きっと探し回ってくれたんだ。

「お姉ちゃん。ごめん」

 

 

「ね、お姉ちゃん」

「んー」

「背中押して」

「何、恵ちゃんブランコこぎたいの?」

 そういいながら背中を押してくれる。ようやくブランコに乗ってる気がしてきた。

「足が長すぎて、うまくこげなかったんだ」

「あら、短足野郎どもの前ではそんなこと言っちゃだめよ」

 くだらないことを言い合って二人でくすくす笑う。

 今日はめずらしくお姉ちゃんが『姉』らしい。やっぱり家族っていいな、とか思う。


 

「……なんかね、各国の国旗がはためいていててあちこちに警備員が立っててね、すんごい場所だったの。

あれどこだったんだろう」

 家までの帰り道、お姉ちゃんが穏やかに話を聞いてくれるのでついつい週末真吾さんと会ったときの話をし始

めてしまった。

「港区にある大使館のそばじゃないかしらね。あの辺は大きなパーティがあれば警備が厳重になるから」

 へーそうなんだ。

「でね、もう逃げるしかないと思ったらね、次から次へとトラブルが起きて……」

「あらら、大変だったね」

そんな風に話しながら自宅のマンションが見えてきた。

エントランス手前の階段をあがると、

 

「恵ちゃん」

急に足をとめてお姉ちゃんが言う。

 

「はい?」

どうしたんだろうと思って振り返ると、

 

「ひとつ聞きたいんだけど」

 

「なに」
 

「借り物のお洋服はどうしたのかな」


「へ?」

 しまった。まだタキシード着て帰ってきたことを言ってなかった。

「え、えーっと」

 

「パーティには何を着て行ったのかな、恵ちゃん」

 

 そういいながらにっこり笑う。 その顔はすでに『姉』じゃなくて『作家』だった。

 

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2005/6/25 update

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