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「し、真吾さん」

「一体ここで何をしているんだ。啓、こっちへ」

 どうやら真吾さんは彼が私になにか危害をくわえると思ったらしい。

 ひええ、なんかまずい雰囲気。

 こういうときはあわてちゃダメだ。自分にそういいきかせる。 それに私が全部話せばすべてが終わることなん

だから。

 

「大丈夫?」 とりあえず今だ私にひっついている彼をはがす。 何とかうなずく彼をみながら、

「私がきちんと真吾さんに説明しておくから。あとは自分でがんばれ、いいね」

そう言って覚悟をきめて真吾さんのそばへ行く。その間真吾さんは私だけをみつめていた。

「啓」

「私はなんともありません。彼が泣いていたので話をきいていただけです」

 歩きながらそういうと真吾さんはため息をついて、「いちいち抱きつかれないと聞けない話だったのか」

 そ、そんなこといったって。私だってショックだったんだってば。

 うー。それを言うなら私だってため息返しだ。

「誰が泣かしたんですか」 ちらりと真吾さんの顔をみながら言う。

「啓。 言う時にはっきり言わないほうが後々もっと相手を傷つけると思わないか」

 うっ。

「……」

 そうか。その通りだ。私がこうしているのも誰かを傷つけているのかもしれない。はっきり言わなきゃ。

会場にもどったらまた人だらけだし、それなら今周りに人のいないここで言うしかない。

「真吾さん、話があるんです」 いよーし。言うぞ。言うぞ。今度こそ言うぞ。

「奇遇だな」

 は?

「私も話がある」

 ダメダメ。私の方が先に言うんだから。

「私は…」

 そこまで言ったとき真吾さんの手が私の腕をつかんでひっぱった。次の瞬間、彼が私を抱きしめているのに

気がついた。 

 うわわっ。な、なんか、すごいな。結構大きいはずの私が真吾さんの胸にすっぽりおさまっている。

「気に入らん」

「え、えええっ?」

「他の男に先に抱きつかれるなんて」

 そういって腕に力がこもる。

 きゃーーーー。さっきあの青年に抱きつかれたときはびっくりしただけだったけど、やっぱり真吾さんだとどき

どきしてそれでいて気持ちいい。

 不謹慎だってわかってるけど、これが最初で最後だもん。いいよね。思わず目を閉じて感触を味わう。

 

 

「啓、いこうか」

 真吾さんの声が遠くに聞こえる。ぼーっとしたままうなずいて一緒に外に出る。車が発進してから我に返って、

「あっちゃー、また言いそびれた」と気がついた。

 ううっ。抱きしめられただけでぽーっとしちゃうなんて、これも日ごろ免疫がないせい。

 それにしても、パーティはまだ終わってないみたいだったけど、いいのかな。

 

 はあ。今言うにしても車の中だと運転手さんがいるし、ホテルで着替えて帰る寸前にしよう。

 

 ……

 

 何か私自分で自分に言い訳しているみたい。やっぱり言いたくないんだ。すこしでもこの幸せな時間が長く続くよ

うに願ってしまう。

『かえって相手を傷つける』か。真吾さんも私のことを知ったら少しは傷つくだろうか。

 それともすぐにさっきの青年とまた仲良くなるのだろうか。自分で「押し倒せ」とか言っておきながらそれを考える

のも嫌な私はつくづく自分勝手だと思う。

 

 に、しても……あんなにきつーく抱きしめられたのに「女」とばれない私ってなんだろう。

 車の中でまた『ぐるぐる』思考が始まってしまった。


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2005/3/13 update

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