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「どういうことですか」 やっと脳みそが呪縛から解けて働き出した。

「なにが」

「さっき業田会長がおっしゃっていたことです」

「ああ」

 ああ、じゃなーい。

「私の秘書として君をヘッドハンティング中だと話した」

 

 秘書、秘書、秘書。まさか私のしている仕事がばれている? ということは実は私のこともわかっている、とか。

 

 私が口を開く前に、

「さっきも言った通り明日は会長の自宅でプライベートパーティがある。服装は今日のように正装じゃなくていつも

のスーツでかまわない。時間は……」

 きゃ〜。やっぱり何にもわかってない! どーして本人を無視してスケジュール決めちゃうのよ。

 と、いうかこれ以上はやばい。話が大ごとになってきてこのままだと彼の信頼問題にもかかわるんじゃ……。

 自分が聞かれるのもいやだったから私の方も真吾さんのことは何も聞いていないし知らない。

 でも今日はっきり分かった。きっとすごいところの御曹司なんだ。
 

 やっぱり、やっぱりこれは。

 逃げるというか、とんずらするというか、ずらかるしかない。



 うーん。警備が厳しいから庭からってのは無理ね。やっぱり正面でるしかないか。

 それにしたって、本当に、もう、もう……



「はあ。……わかりません」 ため息をついてつぶやく。

「何がだ」

「真吾さん。冗談は困ります、秘書なんて。あなたは私の素性も何もしらないのに。私が犯罪者だったらどうする

んですか。あるいは産業スパイかもしれないんですよ」

「ほう。それはいいな。24時間そばにいてスパイしてくれてもかまわん。隙間なくびっちりと、な」

 そういってにっこり笑う。

「ど、ど、どーしてそういう冗談を」



 真吾さんが私の話を聞いてくれなーい。 まさにハイテンション時の姉と同じ。

 結局その後もいろいろな人に挨拶させられて、なかなか逃げるきっかけがつかめない。


 そんなことをしていたら突然私たちの前に青年が飛び出してきた。

 
「真吾さん、おひさしぶりです」

 そういってなぜか私に挑戦的な視線をなげてきた。 何、何でだろう。

「啓、すまない。ちょっと話してくるから」

 ちょっとあわてたような真吾さんに驚きながらも、『おおっ、チャ〜ンス』と思ったのも確か。

「平気です。お料理いただいてますから」そういってにっこりする。


 真吾さんがその青年と一緒に私のそばを離れると早速出口にむかった。

「今のうちに早く、早く外に出なくちゃ」

 でも、あの青年は誰だったんだろう。気にはなったけど、とにかくこれ以上めんどうが起こる前に帰ろう。
 

 そして、もうすぐ出口、というところまで来たとき。
 

「あ、あの子だ」 入り口横の広々とした階段の中央にさっきの中学生くらいの女の子がいた。歩きながら

様子をみると、どうもなれないヒールが絨毯にひっかかり、それを足をふって取ろうとしている。

 その姿がとてもあぶなっかしい。

「ああ、階段なのに。大丈夫かな」

そう思った瞬間、「きゃあ」と小さく叫び声が聞こえ、彼女の体が宙に浮いた。



「あぶない!」



 気がつくと階段を踏み外した彼女を受け止めていた。と、いうかしりもちついた私が彼女を受け止めた感じ。

「大丈夫。立てる?」

 彼女はいまだに何が起こったか把握できないらしく、きょとんとしている。とにかく彼女が立ち上がってくれないと

私が立てない。

「大丈夫?」 もう一度聞いてみる。

「は、はいっ」 やっと気がついて真っ赤になっている。あーあ。やっぱり女の子はこうでなくちゃ。

 かわいいな。 私から何とか体をずらした彼女はうまく立ち上がれずまたぺたんと床にたおれた。

「足、怪我したの」聞いてみると足首をおさえてつらそうな顔をしている。

 靴は階段の中央で絨毯にからまったまま残っていた。

「あれじゃ足をひねるよなぁ」 よっこらしょっと。

 そんなことをしているうちに騒ぎに気がついたのかホールにいた係りの男性が話しかけてきた。

「だいじょうぶですか?」

「彼女足を痛めたみたいなんです。お医者様に見てもらったほうがいいですね」

 そういうと

「奥に医務室がありますのでそちらへまいりましょう」

 だけど彼女は立つのもつらそうだ。うーん。しょうがないな。この子なら小さいし私でも平気かな。

「ね、ちょっといい、私の首に手を回してもらえる? よーいしょっと」

 彼女を抱え上げる。

 う。さすがにちょっと重いかな。でも抱えあげた後に『重〜い!』とかいっておろしたらこの子が傷つくよね。

いそげ、いそげ。

「すみません。案内してください。彼女は私が連れて行きますから、あ、靴片方あそこにあるんでお願いします」

 いそがないと彼女落としちゃうよ。

「今日はご両親と一緒?」 

「はいっ!」

 それを聞いてから彼女のご両親はいないかと後ろを振り返ると、なんと会場の若い女性がこちらをみて

目をうるうるさせている。うわーっ。

 そういえば女性が好きなシチュエーションだわ、これって。姫抱っこだもん。

「と、とりあえず先に奥にいこうね。しっかりつかまってて」

あーっ、こんなことしている場合じゃないのに! 早くしないと真吾さんにみつかっちゃう。


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2005/2/27 update

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