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「あ、そうだ。忘れないうちに返しておきます」

 そういって腕時計をはずす。私にとっての本日のメ〜ンイベンツ。



「君の時計だが、誰かにプレゼントされたものかな」

 真吾さんが私の時計をはずしながら聞いてきた。

……うわ。まさかタキシード姿でその時計をしてくるとは思わなかった。

「ええ、家族が誕生日にくれたものです」

 そう答えると真吾さんはすこしまゆをひそめた。その表情をみて姉が製造番号がどうのこうの言っていたのを

またまた 思い出した。

 うーん。ひょっとするとおねえちゃんの言う通り本当に調べたのかもしれない。 



「それともう一つ……あれ?」

 きゃーっ。手紙を、手紙をバックに入れたままホテルに忘れてきちゃった。さっさと渡しておこうと思ったのに。

「どうした」

「荷物を、荷物をさっきのホテルに忘れました」

「それなら大丈夫だ。また帰りによるから」

「はあ」

 それまでにまた丸め込まれないようにしなくちゃ。



「着いたぞ」 そういわれて車を降りると、

 う、ここはどこ? 日本じゃなかったっけ?

 入り口には各国の旗がひらめいて、大理石の柱のある、まるでどこぞの宮殿のような入り口。

「すごいなぁ。お城の舞踏会にきちゃったって感じ。中からミッキーマウスがでてきそう」

 それにしても警備もすごい。入り口はもとよりテラスへ続く大きなドアの回りには警備員がいる。そして

建物の周りには高い塀と有刺鉄線。

 ……逃げるときは正面から堂々と優雅に脱出しなくちゃだめだな……

 そんなことを腕組んで考えてみたりする。



「どうした? こっちだ」

 促されて中に入ると、いるわ、いるわ。正装に身を包んだ人たちがごっそりと。

 外国人もかなり多いけどこれは一体何のパーティだろう。車の中で聞いておけばよかった。

 真吾さんのあとについて歩いていると、あちらこちらから視線が自分にそそがれているのがわかる。

 それこそ好意的なものから詮索的、挑戦的なものまで。

 とりあえず好意的な視線をくれたひとにはさりげなく笑顔をかえし、挑戦的、その他は全く気付かないふりをした。



 やっぱり女性はみんな綺麗だな。いいなぁ。ふりふりドレスとかピンク色が似合う人は。女として生まれたからには

一度で言いからこういうのが似合うルックスになりたいなぁ。タキシードが似合う女っつーのはどういうこったいって感

じよね。


 ふと会場の中央をみるとピンク色のドレスをきた中学生くらいの女の子がいるのに気が付いた。

 手、足、顔が驚くほど小さい。パーティが初めてなのか初々しいしぐさがまたなんともかわいい。

 いいな、いいな、体とっかえたいな。


 真吾さんのほうを見ると、知り合いがいたのか白髪の紳士に話し掛けている。その紳士の周りには人だかり

ができていてすごい大物なんだな、とわかる。


  はー。私、完全に場違いだな。関わるのも恐ろしいのですこしはなれて様子を見ることにした。


 しばらくすると、真吾さんが私を引き寄せて

「彼が今お話した寺崎君です」 

 は? な、な、何の話してたんだろう。今までのパターンから行くととんでもないことに違いない。

 今度は何だろう。心臓が破裂しそうだ。

「寺崎くん、こちらがヴァンズーム社の業田潤一郎会長だ」

 反射的ににっこりして 「はじめまして。寺崎啓です」

 と言った直後にヴァンズーム社がフランスをはじめヨーロッパに拠点をおく超巨大企業だったことを思い出した。

 げ。そちらの会長……

 冷や汗が吹き出し背中を伝うのがわかる。これ、これどういうパーティなの?

「話を受けてほしいのですが、なかなかウンとは言ってくれません」

「ほお、君の説得を受け付けないとはますます有望だな」

 あ、あのー。話が見えないんですけど。

「寺崎君といったね」

 突然業田会長が私のほうを向いて私に話し掛けてきた。

「は、はい!」

「彼は有望な二世だ。是非そばにいて仕事を手伝ってやってほしいな。彼の秘書になりたい人はたくさんいるん

だよ」

『はあ〜〜?』 ひしょ? 秘書? それとも避暑?

  額からも汗がながれる。

「沼田君、明日のプライベートパーティには寺崎君も一緒にどうだい」

「もちろんです」

  なーんですって? なにそれ。


  真吾さんが返事をすると業田会長は手を振って忙しそうに立ち去ってしまった。

  脳が活動を一時停止していても真吾さんに「ハメられた」のだけは分かった。

……そっちがそういうことするなら、こっちは……
 

 隙を見て逃げよっと
 

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2005/2/24 update

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