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『新説・シンデレラ』

(4)
 

「へーえ、さすがお城の料理はちがうよな」

 キャビアをたっぷりとのせたクラッカーをほお張りながらケイはつぶやきました。

「なんてったって、城下じゃ魚介類なんかほとんど手に入らないもんな」

 そういってうれしそうに海老料理に手を伸ばすケイを彰王子は何も食べずにニコニコみつめていました。

 

「あ、あの王子様は召し上がらないんですか」

 さすがにその視線に気がついたケイが聞くと、

「ほら、言葉遣いが戻ってるよ」

 そんな事を言われても普通ならば一緒のテーブルにつくなどありえないほど身分の差があるのですからケイが

(ちょっぴり)気を使うものあたりまえというものです。

「でも」

「いや、ケイが一生懸命食べているしぐさがあまりにもいじらしくてね。見とれてたんだ」

「ぶふっ」

 それを聞いたケイはびっくりしてのどを詰まらせてしまいました。

「うううっ」 ぽこぽこと自分の胸をたたくケイを見て

「大丈夫ケイ? あわてて食べるからだよ、お水飲んで」

 それでもケイはすぐには差し出されたグラスをうけとることができず赤い顔をしてうなっています。

「しょうがないね、ケイ」

彰王子は自分の口に水を含むと

「んーーーーーーーーっ」

 ケイに口移しで水を飲ませたのでした。

「けほっ、お、お、お、い、い、い、な、な、な……」(訳:お前、一体何すんだよ)

 我を忘れて王子に文句をいいそうになったケイでしたが、

「飲み込めた? よかった」

 そう言ってスーパースマイルをうかべる彰王子の顔を見ると何もいえなくなってしまったのでした。

 

 その後は大変でした。

 ケイはすっかり彰王子を意識するようになってしまい、緊張で何を食べても味が分からなくなってしまいました。

「ご、ごちそうさま。もういいや」

(お、俺はなんで男相手にドキドキしてるんだ。きっとこれもあの妖精の魔法にちがいないんだ)

 そう思っていると、

「どうしたの、ケイ、顔が赤いよ。具合でも悪いの」

 どっきーん。

「な、な、なんでもないです」

「だからそんな話し方はなし」

 彰王子はにっこり微笑んでケイの手をとりました。

「とんでもないっ! 俺、魔法が解けたら帰りますから」

 なんとなく『ヤバイ』から早く彰王子からはなれたいと思ったケイでしたが

「だめだよ、ケイ。そんなに顔が赤いなんてきっと魔法の副作用で熱が出たんだよ。動いちゃダメだ。今晩はここに

泊まるといいよ」

「と、泊まるって? そ、それはヤバイ、じゃなかった。俺、やっぱもう帰ります」

 あわてて立ち上がったのはいいのですが、只今ドレス着用中。

 慣れていないケイはすそを踏んでひっくり返ってしまいました。

「いってえ〜」

「ほら、言うこときかないからだよ」

 そういって、彰王子はひょいとケイを横抱きすると

「そろそろ12時だから準備しておかないとね」

 とつぶやきました。

「へ、12時って、魔法が解けるとなんかあるの?」

 横抱きされたのを怒る前に変なことをいうので聞いてみました。

「やっぱりケイはなにもしらないんだね」

 そう言って彰王子はスーパースマイルをうかべるとケイを抱いたままずんずん部屋の奥へと歩いていきます。



「えーっと」

 たどり着いた先はベッドルーム。ケイは超ゴージャスで馬鹿でかいベッドの前で冷や汗を流していました。

「さあ、もう寝ようかケイ」

「は、ここでですか、俺が、なんで」

「だから、一緒に寝ようね、ケイ」

「??? 俺、中耳炎は子供のころになったきりのはずだけど」

「ケイの冗談はおもしろいね」

 おもしろくねえよ。心の中で反発をしてみましたが、

(いや、ちょっとまてよ、俺は男なんだし、馬鹿でかいベッドだから単に寝るだけだよな。ははっ、俺ってば変なこと

考えすぎ)

「お、王子様、おろしてもらえますか」

ケイが気を取り直してそういうと彰王子はそっとケイをベッドの上におろしました。

「ケイ、そろそろ12時だよ」

「だから何を……!」

そこまで言ったとき、ケイは彰王子が自分にのしかかり、その唇がケイの唇をふさいでいるのに気がつきました。

「ん……」

(うわーーーーっ、うわーーーーーっなんだコイツも脳みそが魔法にかかってんのか)

 ぱたぱたと力なくあばれて、やっと王子の唇が離れるとケイは乱れた息を整えつつ

「じ、12時に一体なにがあるの」

「うーん、僕は自分でそうしてもいいんだけど、まあ最後は同じだし」

 はあ? ケイの頭は混乱してしまいました。が、混乱している間にも

「あああああ、お、王子、一体どこさわって……ちょっ、だめっ」

 

ギィーーーーンゴーーーーンーーーーーー

 

 お取り込み中ではありますが、ついに12時をつげる鐘の音が聞こえてきました。
 

 つづく →
 

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2005/5/4 update

2005/9/7 マス空抜け箇所修正

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