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「そ、それって」

「だから。荷物を下から引き抜こうとしたらいきなりダンボールの山が倒れてきた、で、只今めいっぱい下敷き状態」

 下から引き抜く? そんなことしたら倒れてくるのは当たり前じゃないか。

「もー、アホですか」

「結構、痛いな……」

痛いって……

「先輩っ、先輩、怪我したんですか?」

恵さんを迎えに行く約束をしたのが9:30だ。その時間になったらすぐにいって恵さんを連れ戻してから先輩のマンシ

ョンまで……。

「僕が行くとするとあと1時間はかかってしまいます。先輩、ご家族は? 近くにご兄弟とかいませんか」

「……いないよ。ま、いいや。用事終わったら来てくれ。このまま寝る」

「ちょっ、先輩、待ってください。せめて管理人さんに連絡するとか、ちょっと」

プッ

切っちゃったよ。どうして僕の周りには最後まで話を聞かない人ばっかりなんだろう。(含・亜紀)

とりあえず慌てて車の停めてあった場所へ戻ると……なんか変だ。


「あれっ、車がない」 僕は驚きのあまりでかい声で叫んでしまった。

ない。ない。亜紀さんの車が無い。あたりを見回してもない。念のため大通りにでてもそれらしい車は見当たらなかった。

どういうことだろう。 とにかく亜紀さんの携帯に……僕が慌てて電話をすると亜紀さんはすぐに出た。

「亜紀さん、今どこにいるんですか」

「やだーん。田村君帰ったんじゃなかったのお。聞いて、聞いて、今ね、恵ちゃんったらビジュアルオッケーな人とお食

事に移動中なのぉ」

 はあ? ああ、亜紀さんと話をしていると骨のカルシウムが全部とけだすような気がする。僕がいつ帰るって言ったと

いうんだ。

「亜紀さんっ。そんな勝手なことしてっ! 恵さんは大丈夫なんですか」

 僕の絶叫を無視して「うふふっ。大丈夫よ、お相手はエクゼっぽい人だったし。あとでくわしく教えてあげる。じゃあね〜」

を締め言葉に彼女は電話を切ってしまい、 そのあと何度掛けても無視された。

……。
 

 しばらく道路の真ん中で呆然としてしまったけれど。どうしよう。

 だけど僕の頭の中には荷物に押しつぶされて流血している先輩の顔が浮かんでぐるぐるまわっている。

「恵さんにはGPS機能付きの携帯があるし、亜紀さんは恵さんに関してのみ危険探知異常嗅覚をもってるから……大

丈夫かな……」

 ああ、恵さん! ごめんなさい。どうかご無事で。

僕はタクシーをとめると「けが人の救出です」と大声を上げ、運転手さんに爆走ドライブさせてしまった。

週末にもう一度先輩の『腐海』の片付けに来ることになっていたから僕は部屋のスペアキーを預かっている。

だからマンションには何のトラブルもなく入れた。

「僕がキーをもってなかったらどうするつもりだったんだ、まったく」

 荒々しく入り口のドアを開け叫んだ。 

「先輩、大丈夫ですか?」

 そのままどかどかあがりこんで例のダンボールだらけの部屋に飛び込むと、

「あれ? 早かったな」 

 ころがったダンボールの山の隙間から先輩が手をひらひらさせて居場所を教えていた。

「まったくもー、怪我はどうしたんですか、怪我は」

平気そうじゃないか……ぶつぶつ言いながらダンボールをもとのとおり積み上げていくと 、ひっくり返った先輩を

発見。

「大丈夫ですか」

声をかけて手を伸ばすと、その手をぐいっと引かれて僕は床に倒れこんだ。
 


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2005/10/29 update

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