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「いやーん。田村くーん、みてみて恵みちゃんったらカッコいいの」

 翌日の夕方、亜紀さんを訪ねると、部屋の奥からスーツを着込んだ恵さんを引っ張ってきた。

 げっ。恵さんたら髪まで切っちゃって。

 

当の彼女は少し恥ずかしそうに俯いてそれからポツリとつぶやいた。

「こういうの着るの学生のとき以来で。でも、いくらなんでもバレちゃうよね」

 

 言ってあげたかった。「うーん、やっぱり分かりますねぇ」とか何とか。

 しかし僕は驚きのあまりあんぐりと口をあけたまま一時停止していた。

「田村さん?」

 恵さんが心配そうに僕の顔を覗き込む。すると正気に返った僕はうっかり本音を言ってしまった。

「め、恵さん、ヤバイくらいに似合ってます」

 うおーっ。どうして僕は機転が利かないんだ。恵さん傷つくじゃないか。僕のばかっ。

 

 しかし恵さんは軽くため息をついて。

「やっぱり。 あはは、実はね、あまりにも似合いすぎて鏡見ながら凹んじゃった」

 言いながらネクタイのノットをいじる。ああ、かわいそうに恵さん。そんなしぐさもイケてます。

 

「恵ちゃんったらもう本当に素敵なの。さっきね、一緒に外を歩いたら女の子が目をハートマークにして振り返るのよ」

 能天気にはしゃぐ亜紀さんときたら天使のような顔をして悪魔の発言をしていた。

 

 

 車で銀座へ移動して、僕の案内で『例のバー』の存在するマンション前へと移動する。

 建物を見た亜紀さんの言うことには。

「うーん。外観からは想像できないわね。こんなところの内側であんなこと、こんなこと起こっちゃったりしてるのね。うふーっ」
 

 僕は恵さんと二人一緒に俯いてため息をついてしまった。
 

「恵さん、いいですね。場所は7Fの突き当りの部屋です」

「うん。すぐにカウンターがあって、そこにいるマスターに質問されるのよね?」

 実際に店に入る前に僕は恵さんと詳細な打ち合わせをした。それと念のため会社から支給されているGPS機能付

携帯を使ってもらうことにして、ある程度時間がたったら僕が待ち合わせを装って迎えに行くことになっていた。

 

「おねえちゃん、田村さん、絶対待っていてよ。なんかあったらすぐ電話するからちゃんと対応してよ。

それと9:30すぎてもなにも言ってこなかったらかならず覗きにきてよ」

恵さんは不安そうに何度も僕と亜紀さんに念を押して車をおりて行った。

 

「ねえ、田村君。あの恵ちゃんの後姿。ビューテホーだと思わない」

 そういって亜紀さんは首をかしげて目を潤ませる。

 しかし今の僕は恵さんが心配で同意するどころか「ヤン坊、マー坊、天気ヨホー」とか言われていても気づか

なかったに違いない。

 

 

「おかしいな」

 ううっ。僕の心配が的中してしまった。恵さんが店に入ってから15分は経っただろう。

 今出てこないところを見ると例のマスターは入店をOKしたってことか。

 ああ、恵さん。スーツ姿がりりしすぎて接客のプロにも見抜いてもらえないとは。

 

 僕がハンドルに突っ伏していると、車内で携帯の着信音が鳴り響いた。

恵さん? いや、この着メロは違うな。画面で着信をチェックすると。

「せ、先輩」 飯島先輩だ。どうしたんだろう。僕はあわてて通話ボタンを押した。

「あ、田村か。御免、仕事中だとは思ったんだけど」そこまで言うと電話の向こうでゴトンという音が聞こえ

先輩のうめく声が聞こえた。

「もしもしっ、もしもし、先輩。どうしたんですか」

心配そうに僕をみる亜紀さんに申し訳なくてちょっと頭を下げてから一旦車をおりた。

 

「御免。お前が、危ないから触るなっていってた『山』をくずしちゃって」

「『山』って……あーーーーっ!」

 

 そうだ。昨日の夜だけでは結局部屋を片付けきれず、週末に持ち越したのだ。

 せめて眠る場所を確保するため「先輩の知らないうちに購入されていた通販グッズ」などの大きな荷物は

隅の部屋に移動させた。そのため、そこはりっぱな『山』となっていた。

 それを崩したって一体……。

 

「先輩。今どうなっているんですか」

「う……ん。実は……さ。今、俺荷物の……下」

 そこまで聞いて僕は手にしていた鞄を落っことした。


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2005/10/8 update

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