Kaoru Tachibana (C) all rights reserved.  

このページで使用している素材の2次配布を禁じます。 内容の無許可転載は厳禁です。


 足元をほよほよさせながらついていくと階の突き当たりに現れたゴージャスな扉が開き、

「飯島様。お待ちしておりました」

 と言う声が聞こえる。 


 僕は思わず「うおお、ココがそうなのかっ」と気合を入れた。


 ところが中は贅沢な造りの高級レストラン、と言った風情で女性客もいる。

「あれ」

 え、『エクゼオンリー』は女性客もOKなのか?

 なんて思いながら通されたテープルにつくと、僕の顔をみて飯島先輩がふふっ、と笑う。

「まずは食事」

「あ……あああはは。そうですよね、いきなりは早すぎますよね」

 って声ひっくり返して何言ってんだ僕は。



「あの。先輩」

「なに」

 なぜ紹介して欲しいのか、詳しい話をしておいたほうがいいだろう。


「村井先輩はどこまで説明されたんでしょうか」

「用件は聞いた。なんだかね、出版業界ってのも色々と大変だな」


 電話のときも感じたけど派手なルックスに反してすごい穏やかないい声だ。やっぱ職業はホストかな。

 この声で女性を落としてたりして。ついでに男性も。うわお。


 ……どうも亜紀さんの担当になってから発想がこんなになっちゃって困る。


 などと僕が勝手な妄想をしていると。


「今夜行って雰囲気がわかればいいんだよね」

「は?」


 あれ、どうやら僕が店を探してそのあと別の人(恵さん…これは伏せておいたほうがいいな)が行くとは聞いてない

ようだ。

「ええっと、ちょっと違うんです。どこから説明しようかな」


 僕は後日行く人が恵さんという女性だということ以外は全部説明した。

 彼は食事をとり、ゆっくりワインを飲みながら話を聞いていた。もちろん話の途中、いい声で相槌をうちながら。


「そういうわけで、後日行く『その人』が雰囲気を掴む為だけですからお店の名前は公表しませんし、先輩のお名前もど

こにも出しません。ご迷惑をかけないよう細心の注意をはらいます」

「なんで今夜、田村が行くだけじゃダメな訳」

「僕でカバーできればよかったんですが、それが作家の要望でして。人気作家ともなると時として理不尽なことも依頼し

てきますから。特に今回の作家は……」


 いいながら胸がつまるような感じがした。 亜紀さんのせいにばっかりするなんて最低だ。

 あのとき恵さんにあんなことを言ってしまったのは僕自身なんだから。


「まあいいや。俺は別にゲイの擁護主義団体って訳でもなんでもないし。じゃ、何軒か案内するから」

「えっ」


 思わず驚いた声を上げると飯島先輩も目を見開いて

「どうした」

 と聞いてきた。


「あああの、この銀座新橋界隈にはそんなに何件も『そういう』お店があるんですか」

「まあ知られてないからね」


 なるほど。そっちの世界はあえて宣伝せず口コミで知られていくものなんだろう。ふむふむ。

 レストランを出てまた僕はへろへろと先輩について歩く。


「まずはここかな」

「はいぃ? ここ店なんですか」


 思わず聞いてしまった。そこは看板も無くただ地下へ続く階段があるだけだ。

 ううん、まさに『秘所、秘所、秘所』って感じだっ。つい興奮して脳内連呼してしまう。



 階段を下りて扉を開け、中に入ると意外や意外。すごく贅沢な雰囲気のちゃんとしたバーだった。


「まあ、正(ただし)さん、お久しぶり」


 飯島先輩に話しかけてきた声のほうを向くと、店のカウンターのなかにセミロングの黒髪が印象的な美女がいた。 

彼女は先輩と挨拶をかわしながらさりげなく僕を見てチェックをいれている。
 

「へえ、ずいぶんと普通のボクちゃんじゃない。美人好みだったあなたがどうしちゃったの」


 げ。どう言う意味だよ。顔はきれいだけど言うことは辛らつだ。 

「郁(いく)っていうんだ。かわいい名前だろ、彼と話があるから奥の席に行くよ」

 先輩はそういって僕の肩を抱くように手を回して(うおおおっ)奥へとつれて来てくれた。


「先輩、あの人すっげえ美人。女性がこの店仕切ってるんですか」

 席に着くと僕は小さい声で聞いてみた。

「ん、ああ、あれ男だよ」

ぶぶっっ……


 あまりにもびっくりしてあわててカウンターのほうを振り返る。わっ、目があっちった。

「まいったな。女と間違えるくらいキレイな男、そして男にみえちゃうくらいカッコいい女」 僕は恵さんを思い浮かべてた

め息をついた。

「で、どう。ここは」

 だめだ。彼女……じゃなかったカウンターの『彼』を見たら恵さん深読みして傷ついちゃうかも。だめだ、だめだ。

「すいません。ここはちょっと」 それに彼、口が悪そうだし。あいつはバツだね。

 すると先輩は肩をすくめて

「だめか。客層は悪くないと思うんだけど」 そうつぶやいた。

 カウンターの『美女』に気をとられて気づかなかったけど店の中には亜紀さんがよだれをたらしそうなくらいの美青年

や美中年? が肩をよせあってひそひそ話している。

 こ、これがナマホモカップル……。 僕はごくりと喉をならした。


 
←もどる つづき →
 

←コンテンツページへ

2005/8/27 update

 ←ご感想はこちらまで