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「あいつには俺から事情を説明しておくから夕方にでも連絡をとれ」
そういわれて僕は夕方一番、午後5時に村井先輩から教えてもらった携帯番号をプッシュした。
「はい」
とても落ち着いた声。あれ、イメージと違うな。間違えたかな。
「あ、あのっ、田村と申しますが」
「……田村、ああ、お前か。村井が言ってた」
ああ、村井先輩ちゃんと連絡しておいてくれたんだ。
「お忙しいところすみません。あの、ちょっと込み入った事情がありまして……」
僕はまだここまでしか話してないのに。
「今夜7時。新橋駅の改札で。ちゃんと髪をととのえてスーツ着用」
は?
「えーと、こ、今晩ですか」
急な展開についていけなくて問い返す。
「急いで紹介して欲しいって聞いてたけど。ちがうの?」
うわー。さすが村井先輩。話が早い。今度おごらせてもらおう。
「いいえ、伺います。7時ですね」
電話を切った後ふと思った。
紹介ってことはさあ、僕もその店に行くってことだよな。うううっ。28歳にして異世界探検。
月刊ヌーの恐怖雑誌担当者と競えるくらいコワイよ〜。
「いや、恵さんのためだ。責任取らなくちゃだよな」
時間になると僕は言われた通り髪をきちんと整えて、いつもは雑に扱っているスーツの上着をきちんと着てでかけた。
もちろん経理からそれなりの額を仮払いしてもらって。
新橋までの道すがら、学生時代に何度か見かけたっきりだから顔覚えてるかなあ、なんて考えていた。
いや、当時はハデだったけど社会人になったら意外と地味なサラリーマンだったりして。
いろいろと想像をしながら待ち合わせ場所へ向うと。
「嘘だろ」
顔を覚えているか、なんて無駄な心配だった。
長めの茶パツに紺のスーツ、しかもすっごく高そうなやつ。
そして学生時代とかわらず『御綺麗なお顔』もろホスト系。一体どこに勤めてんだ。目立つったらありゃしない。
「ああああのっ」
うへ。普通に話し掛けたつもりが声がひっくり返ってしまった。
「あ、田村か?」
通りすがりの人たちが僕と彼のあまりの差にいぶかしげな視線をおくってくる。
「今日は無理を言ってすみません」
かるく頭を下げると彼は僕をじっと見詰めてから、
「……行くよ」
とだけ言った。どうもあまりおしゃべりが好きではないらしい。
「はいっ」
僕は軽やかに歩いていく彼の背中を追いながら 「恵さんのため、恵さんのため……」 そう無意識に唱えていた。
そして連れて行かれたのはインテリジェントビルの最上階。
エレベーターから降りた瞬間に床が贅沢なカーペットを使っているとわかる。歩き心地がふわっとする。
場違いなのとなれないふかふかカーペットによろよろと歩いていく僕。
「おーい、どこいくんだよぉ」
2005/8/25 update