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「えっ……」
そうつぶやいた恵さんの悲しそうな瞳を僕は忘れない。
どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。 よく考えなくたって恵さんのほうが正しかったのに。
挙句に……。
「ってな訳で〜、田村君も素敵なお店探し手伝ってね」
「え、僕がですか。むしろ亜紀さんの方が詳しいんじゃ……」
「あのね、私のかわいい恵ちゃんが行くのよ。安全、美形ぞろい、さらに重要なのは……」
おいおい、それを僕に探せって? だいたいかわいいならそんな事させるなって。
「じ、重要なのは」
「エクゼオンリー」
そんなのあるわけないだろう!
「そりゃあ、私だって女性も入れるバーならいっぱい行ったけど。本当に面白そうなところは女性じゃだめなのよね」
僕がげんなりした顔をしていると、
「やだーん、できうる限りのことをします、っていたのは田村君だもーん」
そういって僕の頬を両手で挟む。
うっ。
「前言撤回は無しよ〜」
恵さんは部屋にこもってしまい、亜紀さんは陽気に仕事へ戻っていってしまった。
僕は、僕は……。
悲しい男のサガとはいえ僕は恵さんに悲しい顔をさせてしまった。
ええい、僕は情報を扱う出版業界にいるんだ。ありとあらゆるコネクションを使って探してやる。
それから僕は他の仕事をほったらかしにして亜紀さんの希望する『店』とやらを探し始めた。
「やっぱり餅は餅屋ってことで」
知っている人も多いと思うがいわゆる色物、水商売とかそういった類の出版や記事を担当している出版社や記事を
担当しているフリーライターはたくさんいる。
そのほかにも出版社にいる友人、知人かたっぱしから連絡をつけて協力を御願いした。
が……
「うーん。結構そっちの世界って閉鎖的なんだよね。オープンなところはネットで調べりゃ分かるし。そういう所じゃ
だめなんだろ?」
大手出版社に勤める村井先輩の言葉である。
「はあ」
もっともだ。短時間でしらみつぶしにあたったけれど皆最後はこう言うんだ。
結局いろいろと探ったにもかかわらずなかなか『良い所』は見つからない。
かと言って恐ろしくて2丁目なんかには恵さんをいかせることはできない。
できれば『それらしくない』ところがいい。
おまけに
僕への指令は「エクゼオンリー」
「……お前さ、飯島って覚えてるか?」 村井先輩がなにやらもごもごと聞いてきた。
「は?」
えーと、誰だっけ。
「覚えてないか。なんていうか学生の癖してホストっぽくって派手なヤツだったんだけどな……」
「あ、あーーーーーーーっ」
そこまで言われて思い出した。たしか大学で村井先輩と同じ学科だった。何度か飲み会で一緒だったことがある。
そうそう、ホストっぽくっていつも回りにキレイな女の子が一杯だった。
あ……キレイな男も一杯だった。
「思い出したか。あいつならどっか知ってるかもしれないな。俺、連絡先知ってるけど。どうする?」
そうだ。色々思い出してきたぞ。彼なら確か『坊ちゃん』だったし、男もいけるって公言して堂々としてたっけ。
どっか教えてくれるかも。
「紹介してくださいっ」
僕は藁にもすがる思いで大声を上げた。
「うん……まあ、お前がどうしてもっていうなら……まぁ、コイツはうってつけだ……な」
「先輩?」
なんか村井先輩の歯切れが悪いのが気になったけど。ま、いっか。
2005/8/20 update