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 うっ。

 残念だけど、今夜は亜紀さんを見張らないとだめだ。

 明日朝一番で入稿しない編集長に殺される。怒りのベクトルは亜紀さんに向けてくれー、といえないのが悲しい

ところだ。

 女性だけの御宅だからできるだけ避けたいけどしょうがない。亜紀さん、編集長にも許可をとった。

 

レッツ、泊まりこみ。

 

 ドアの前に一晩ひっついて何としてでも亜紀さんに原稿を書きあげてもらうのだ。

 そのためには先輩からのお誘い、断らないとな。

「すみません、今夜はちょっと」

 僕がそう言うと少し間があいた。

「そうか」

 先輩の声は低く、かがっかりしたかの様に聞こえる。

 その声になぜか胸がざわついた。

「あ、あの。明日になればうかがえると思います。すみません、なんか中途半端になってて」

 そうだよ。先輩の部屋の『腐海度』はものすごく、一度や二度行った位では片付かなかった。

 必然的にちょくちょく通っては掃除を続けていたのだった。

 謝礼代わりなんだからちゃんとしなくちゃいけなかったのに最近はサボりっぱなしだ。

「いや、掃除じゃなくて。たまにはメシでもどうかなと思っただけだ、気にするな。また電話する」

 

 

 亜紀さんは部屋でパソコンをフル活動させ、僕は隣のキッチンで出来上がった順から原稿のデータを

もらい誤字や言い回し等、チェックしていく。一応きちんとプロットどおりに進んでいる。

 うん、この分なら明日の朝までに完成しそうだ。

 

「うぅーん」 両腕を上に上げて伸びをする。

出口が見えてきて気が緩んだせいかな。どっと疲れが出て目の奥が鈍く痛む。

 

「ちょっと休むか。亜紀さんには悪いけど……と言ってあげたいけど自業自得だからな」

 毛布を手に亜紀さんの部屋の前に座り込むと僕はあっという間に眠りにおちた。

 

 

「ん?」

 どこかで音が聞こえた気がする。

 顔を上げて驚いた、っていうか眠気が吹っ飛んだ。

「あ、恵さん? どうしたんですかその格好」

 僕の目の前に現れた恵さんは、なんとタキシードを着込んでいた。しかも似合ってるし。

「しーーーーーっ! 静かにして、お姉ちゃん、まだこもってるの」

「締め切りすぎて、明日の午前中に原稿を印刷業社に持っていかないと間に合わないんです。今晩は逃がしません」

 そうか、恵さんは納得したように首を縦に振ると、

「すぐ着替えるからそのまま見張ってて」

 そう言って慌てて自分の部屋に飛び込んでいった。

しばらくするとひょっこっと部屋のドアから顔をだして声をひそめて僕に言う。

「お姉ちゃんにタキシードのことはだまってて。私からちゃんと話すから。じゃ、私もう寝るからお姉ちゃんのことよろしく〜」

 

 おいおい、目を見開いて呆然とした。

 亜紀さんの指令でもなくタキシードって。

「この姉妹は……どうなってるんだ」


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2007/7/9 update

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