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 ふう、エライ目にあった。

 亜紀さんの原稿は何とか間に合い、午前中にチェックもすませ印刷へまわすことができた。

「今月の修羅はおわったぁ。」

 仕事を終えた僕は足取りも軽く先輩のマンションへとむかう。

「ただいまーっと」

 先輩はまだ帰っていないらしく、合鍵を使って部屋にあがりこむと僕は部屋中の窓を開けた。

「やっぱりにおいはなかなか取れないよなぁ、まだ生ゴミくさいし。」

 部屋の空気を入れ替えつつ、 なぞの通販で購入されていた音の出ない掃除機『しずかちゃん』をとりだす。

「これお得だよな、小回りきくし、本当に音が小さいから夜に掃除ができるし。共働きの家庭なんかにいいんじゃ

ないかなぁ」

 全部の部屋に掃除機をかけ、カーテンや絨毯にファブリーズをふりまいた。

「今週末にペンキだらけの壁をはりかえるか、ガラス部分はっと……」

 またしても通販グッズにあったスプレー洗剤『ぴかん君』を手にバスルームへいくとペンキだらけの

ガラスに吹きかけてみた。

「おっ、いい感じ、ペンキがとけてきた」

 掃除もやりだすと止まらない。部屋がだんだんと綺麗になっていくというのはある意味快感なのだと初めて知った。

 とりあえずガラスだけ拭いて『ぴかん君』の効力を堪能した後は夕飯作りに没頭した。

 なんだか先輩のところに通いだしてからすっかり主婦業が板に付いた気がするな。

「お前が来る度にきれいになるな」

「わあ!」

 いつの間に帰ってきたのか先輩が真後ろに立っていた。

「ああ、びっくりした。お帰りなさい」

 僕がそういうと、先輩はただじっと僕の顔を見つめている。

 どうしたんだろう、思わず首をかしげると、先輩は目を細めた。

「……ただいま」

 ぽむぽむ。

 まるで子供をあやすように頭をなでる。

「子供じゃありませんよ、もう28ですから」

 なぜか気恥ずかしくてぶっきらぼうに答えてしまう。

「しかし、取り出してみるとあの通販グッズ、結構使えますよ。とくに『しずかちゃん』と『ぴかん君』は本当に……」

「今週末、鍵をつけかえるから」

「ええ?」

 唐突にいわれて意味がわからず僕は大声をあげた。

 

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2008/6/29 update

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