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 すべての準備が整い、予定通り月曜日からここ、『喫茶・モネ』は再開できることになった。

 

 じいさんはとくに制服とか考えずにかってきままな格好をして店をやっていたらしいが、やっぱりオレとしては

きちっとしたい。口に入れるものを扱うわけだし、清潔感のある白いシャツと黒のパンツ、それにロゴのない黒の

エプロンを制服がわりに決めて、朝8時からの開店に備える。

「なんかオレの店って感じがするなあ」

 いろいろと自分でいじっただけに既に店には愛着がわいていたし、おまけにこんなに働いてるって感じがするのは

久しぶりだ。

 いよいよあと10分で開店、というとき、いきなり店のドアが開いてつけてあった真鍮のベルが音を立てた。

 

「おい、来てやったぞ」

 

はあ?

 

「あ」

 うそだろう。確かにきてくれるとは言っていたけど何もオレの『店』のお客様第一号がコイツかよ。

 

 そう、記念すべきお客様第一号は先週勝手にオレに名刺をよこした何とかって探偵社の『生島(きじま)』とかいう奴

だった。

 たとえずうずうしい奴でも、開店時刻10分前に来るという非常識な奴でも、『お客様は王様(神様じゃなく)だ』

 オレはつとめて明るく、

「いらっしゃいませ。本当に来てくださったんですね」

 と、にこやかに迎えてやった。

「おう、まずは審査してやる」

 リップサービスを本気にするなよ、 そう思いつつ奴を席に誘導してから

「ブレンドでよろしいですか」

 と確認すると

「当たり前だ。コーヒーを審査しに来てクリームソーダを頼む馬鹿いるか」

 どうも一言多いんだよ、こいつは。

「準備中でしたので、少々お待ちいただいていいですか」

「かまわん。新聞あるか」

 オレは準備してあった新聞2紙をさしだした。

 いちいちムカついたが、コーヒーカップを湯煎であたためつつ、ゆっくりとコーヒーをいれた。

 すこしすると店じゅうはっきりとしたコーヒーの香りがただよった。

 

「お待たせしました」

 やはりちょっと緊張しながら入れたてのコーヒーをさし出す。

 奴はカップを手にとって香りをかぐようなしぐさをして口をつけた。

 

 あれ、何もいわないな。

 

 「ま、じいさんよりはマシかな。おい、トーストかなんかないのか。モーニングってやつ」

  うーん。じいさんのコーヒーがどんなもんだったか知らないからほめられてるのかどうか分からない。

 「あ、はい。すぐ準備します」

 

 オレはあわてて用意した食パンを焼いて、お手製のバターに小さいガラスに盛り付けたサラダをセットに

して持っていった。

 

 コーヒーをがぶがぶ飲み、バターをぬったトーストを口に入れるなり奴がまたでかい声で叫んだ。

「おいっ、このマーガリンめちゃくちゃうめえぞ」

 それはバターだっ。

 でもまあ、よかった。ほめ言葉だ。お手製のバターだからほめられるとそれなりにうれしい。

 それにしても声がでかい、でかすぎる。狭い店で勘弁してほしい。

 

 奴は30分ほどしてやっと帰るそぶりを見せると、

「おい、お前名前はなんていうんだ」

 いきなり聞いてきた。

「こ、小林です。小林優一」

 そう答えると、何を思ったのかいきなり笑い出した。

「そりゃーいい、探偵と小林少年かあ」

 少年、って25歳になるオレを捕まえて何いってんだ。どこが面白いんだかワケがわからない。

「気に入ったぞ。しばらく通ってやる」

 うわー。頼んでない。

 ひょっとしてこれから毎朝この馬鹿でかい声を聞くことになるのか。

 オレは憂鬱な気分になった。

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2005/6/14 update

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