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−僕たちの日常・中編−
立花 薫
「ただいまー」
その日、学校から帰るといつものように部屋へと突進した。
「かえるん、ただいま」
いつもならここで、「遅っせーぞ、ボケ」とかいうムカつくセリフが「おかえり」の代わりに飛んでくるのに
何も聞こえず、しーんとしたままだ。
「あれっ、かえるん?」
机の上のスープ皿にはエビアンの水があるだけ。
部屋の中央にある『かえるん用テレビ視聴台』にはラップにくるんで自家製防水加工されたTVリモコン。
でもそこにはやっぱりかえるんはいない。
「うそ」
その瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは部屋の隅っこで干からびちゃったかえるんの姿だった。
「かえるんっ、どこっ、返事して」
僕は大声でかえるんを呼びながら部屋中探し始めた。
まずはじゅうたんの上それから机の横の隙間そして後ろ。たんすとテレビの隙間そしてまた後ろ。
僕の部屋を探し終わると、リビング、次に台所。
いない。床の上にも、どこの隙間にも……いない。
「うそだ」
僕はいよいよ狂ったように探しまくった。
朝、パパとママそして僕が家をでるときは確かにかえるんは家にいた。
「帰りにプッチンプリンを買ってきたら食ってやってもいいぞ、肇」
なんていいながら手を振ってたくせに。
偉そうな言い方に腹が立ったけど、僕、せっかく買ってきたのに。
それにさ。
「俺様は銀のスプーンでないと物が食えないっ」
とか言うから純銀製は無理だったけど銀メッキのスプーンだって買ったんだよ。
なのにどこ行っちゃったんだよ。
「大変だ、大変だっ。かえるん死んじゃってるかもしれない」
僕は自分の部屋にもどると頭をかきむしった。
その時、部屋の隅にある鏡に頭ぼさぼさの僕が映る。そうだ、思い出した!
「ああっ、どうしてもっと早く思い出さなかったのかな」
僕はあわてて鏡の前に立つと、
コン、コン。
右手の指にはまった『契約の指輪』で鏡をノックする。
これは契約した際に言われた「緊急事態における王様との連絡の取り方」だ。
もう一度。コン、コン。
すると鏡からものすごい光があふれ出した。
「お〜お、肇ではないか。なにかあったのか、げろ」
鏡の中に映った王様が眠たそうな顔でのんびりと言う。
「王様、王様、大変なんです。かえるんが、か、かえるんが……っ」
言いながら僕はぼろぼろ涙をこぼしてしまった。
「どうしたのだ。やはり、げこっ。あの阿呆が何かしたのであろう、ん?」
「ちがっ、っく、かえるんが、かえるんがいなくなっちゃ……って。干からびて死、死んじゃってたらどうしよ……」
そういうとカエルの王様は目をむいて僕を見つめた。
「なんじゃ、お前、げ、げ、げろ。まさかあの阿呆がいなくなったから泣いておるのか、げろげーろ」
するとカエルの王様は横を向いて
「なんじゃ、報告と違うではないか、げろ」
「いや、しかし私は確かに……けろけろっ」
いつも王様の横にいて威張っているカエルに何か確認している。
なんか様子が変だぞ。
「ねえ、かえるんが何処に行ったか知ってるの? ねえ、ねえってば」
僕は鏡をつかんで揺さぶった。
「お、落ち着け肇。どうも、その、間違いがあったようでな。げろ」
どういうこと。
「ま、と、とりあえず、こっちにくるで、げこっ」
次の瞬間、僕は鏡から発せられた光に包まれた。
2006/5/2 update