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『リニューアルワールド』
(おまけ)
ずっと思っていた。
あたしだけがずっとシュウを好きだったって。
組の代替わりを考えて強制的に結婚が決められたとき、それ自体はショックだったけどその相手が
シュウだと分かったときは死ぬほどうれしくて。
でもシュウはなにが決まっても顔色ひとつかえず淡々としていた。
物心付いたときからヤクザの組長の娘としてしか見てもらえなかったあたしは学校でみんなから徹底的
に避けられた。
ボーイフレンドができそうになっても組長の娘とばれた瞬間に逃げられた。
そんな毎日がつらくてつらくていつも仏壇に向かっては大泣きしてグチをこぼし、わめきまくっていた。
仏壇にはあたしを生んですぐ死んだ母さんと、小さい頃母さんの代わりになってあたしをかわいがって
くれた婆ちゃんがいたから。
もちろんそんなことしても気がまぎれる筈もなく、つらくてさみしくて高校に入ると同時にグレちまった。
毎日ふらふらしては帰りが遅く、学校にも殆ど行かなくなったあたしを見てオヤジのやつ、あたしに監視
役をつけやがった。
それが神代組傘下の城山組組長の息子、修治ことシュウだった。
よく考えてみればそのときからあたしの将来の相手として選ばれていたに違いないね。
あたしはまんまとオヤジの策略に乗っちまったてことだ、いまいましい。
で、結婚してハッピーエンドだったかというとそうでもないのよ、これが。
シュウはプライベートだとほとんどしゃべらないし、いつもあたしがドジやったり騒いだり文句言ったりと
キリキリしているのを面白そうに見ているだけで何考えてるんだかわからない。
それでもあたしはシュウが好きだったから本当は甘えたくてたまらなかった。
でも結局、最後の時も好きだといえずにすれ違ったままだった気がする。
それがどうだい。
「シュウ、重いんだよ、どきな」 マットの上に寝そべっているあたしの腹にシュウが頭を乗せている。
ここはシュウがあたしと、もとい、悠と会うためだけに購入したマンションの一室。
シュウはあたしを本宅に連れ戻すとがんばっていたけれど舎弟やら他の組員の立場から見たらそれは
理解不能な出来事だ。
あたしだって普通の家庭とは違って施設に住んでいるからそうそう好き勝手なことはできない。
それに業を煮やしたシュウはなんとマンションの一部屋を買っちまったのだ。
最初はあたしだって反対したわよ、「なんで本妻でありながら愛人みたいなことされなきゃいけないんだい」
って。
でもやっぱりあたしだってシュウに会いたいわけで。結局は承諾して学校帰りや週末なんかはこの部屋
に来るようにしてる。
あたしはシュウの態度の変化に驚きまくりだ。
この部屋に、というか、会っているときにあたしの姿が一瞬でも見えなくなると大騒ぎする。
とにかくもうぴったりくっついているワケ。
おまけに学生時代の監視役を決める際シュウは自分から立候補したこと、あたしと結婚するために3代目
組長としてふさわしくなろうと必死だったことを告白されたのだ。
あほんだら! そんなこと早く言え、おかげであたしは何にもしらないまま死んじまったじゃないか。
「お光」
「んー、なに」
あたしの腹をまくらにしていたシュウがひょいと起き上がり顔を近づけてきたなー、と思ったら
そのまま唇を押し付けてきた。
「ぎゃー、わわわ、んん、んー」
とりあえず頭をいっぱつぶん殴ってやめさせる。
「なんだ、冷たいな」
殴られた割にうれしそうにしてるんじゃないよ、こら。
「アホ、悠は男の子なんだよ、何考えてるんだい」
「どっちでもかまわないだろう、お光であることに変わりないんだし」
そ、そういえばそうだけどさ、うーん。
「お前、まさかこのままでいいなんて思ってないだろうな」
「へ?」
「俺の女房だってこと忘れてないか」
そりゃ忘れてないけどさ。するってぇーと。
「げ、シ、シ、シュウ、あんたホモだったのかい?」
シュウはあたしを押し倒したまま笑い出した。
「お前、この『悠』のことを体だけでも幸せしてやりたい、とか言ってなかったか」
「え、そりゃ、言ったけど」
いいながらも服を脱がしていくんじゃないよ、こら。
「じゃぁ、幸せにしてやらないと。よかったなぁ、俺がいて」
「ちょっとまった、勝手に悠をホモにするんじゃないよ」
「お光、生きてると色々な勉強ができるな」 シュウは意地悪そうに、にやりと笑った。
そして起き上がってあたしを抱え上げるとうれしそうに寝室へと移動した。
その日、無断外泊してしまったあたしは施設の先生にこっぴどくしかられ、5日間の外出禁止令が
だされたのだった。
了
2006/12/31 update