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『タラチネの涙』

(4)

 

「う……」

 あら、まだやる気なのかな。あたしに急所を蹴られた馬鹿Aがよろよろと起き上がる。

「お前……、こんなに強いなら……なんであの時……」

 それを聞いた瞬間、自分でも両目が光ったのがわかるよ。

 

 『あの時』ねぇ。アンタはたった今、馬鹿Aから昇格だ。

 

 あたしはゆっくりとヤツに近づいた。

「いい子だねぇ、坊や。その『あの時』の話をこれからじっくり聞かせてもらおうじゃないか」

 

 

 

「ね、ねえ、あんなことして大丈夫なの、さ、佐々木君」

 ずかずか歩くあたしのうしろをちょこちょこついてくるのはさっきボコられていた澤藤君だ。

「何が?」

 ちょっと乱暴に聞き返すと、

「だ、だ、だって。あんなこと……」

 なんとも気弱な発言だ。

「あのねぇ、あんたはあいつらにボコられて喝上げされてたんだよ、あーゆー馬鹿トリオにつける薬は

あれが上等。あれくらいやっとかないと仕返しされるよ」

 あの後、『坊や』に昇格した馬鹿Aの口を割らせるべく、他の奴等よりもうちょっと可愛がっておいた。

 結局分かったことといえば生前、悠もやつらにいじめられていたってことだけだ。

 施設で生活している悠には脅されても出せる金は無かった。

 あの馬鹿どもはひたすら暴力で悠をなぶってただ楽しんでいたのだ。

「あ、あのさ、やっぱり、その、保健室いこうよ、は、腫れているよ。顔」

 澤藤君はぱたぱた走って水道でハンカチをぬらしてあたしのところまで戻ってくると。

「ご、ごめんね。僕のせいで」

 彼はそういって唇をかんだ。頬に当てられたハンカチはちょっと冷たい。

「いでで。気にするなよ、もう授業にもどんなよ」

 すると澤藤君はぽかんとあたしの顔を見つめている。

「なんかさ、佐々木君、変わったよね。前はおとなしくて、その、無駄に話をしないっていうか」

「あ、そっか。僕が怪我する前だって同じクラスだったんだよね」

「うん、そ、それにさ、高臣(たかおみ)君といつも一緒だったし……あ……」

 へ? 高臣……って。

「え、誰? そいつ」

「あ、あ、今日はゴメン、ありがとう」

 そういうと澤藤君は短い足を動かして走っていった。

「高臣ねぇ」

 まてよ、高臣っていやぁ、悠が復学してすぐに面倒見てくれた生徒会長様じゃなかったかい。

 妙にやさしいのが薄気味わりぃとは思ったけど。

「よく分からないねぇ」

 あたしは頭を振った。

「悠、あんたに……一体何があったんだい」 

 思わず問いかけると、手首に残った傷がうずいた気がした。

 

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2008/5/1 update  

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