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『タラチネの涙』
(5)
高臣杉人(たかおみすぎひと)か。
何かにつけてあたしの、おおっと、僕の面倒をみてくれている心優しい生徒会長。
以前悠がこいつと仲がよかったなら、それを教えてくれてもよさそうなモンだとは思うけれど、
まあ、仲がよかったからこそ「刺激を与えぬよう」「やさしく」接してくれているのかもしれないしね。
うーん。
「僕の顔に何かついているかな」
「へっ」
あら、あたしったら無意識にその高臣君の顔を見つめちまっていたらしい。
「えっと、あらやだ、じゃない、ごめん」
「そうか? 気分が悪くなったらちゃんと言うんだよ」
あらまた「心優しい」発言ぶっぱなしているよ、こいつ、かわいいじゃないの。
やさしいついでに直球で聞いてみちゃお。
「あのさ、高臣君。僕たちってさ、仲良かったんだってね」
「うん?」
微笑んでいた高臣君の眉が微妙に動いた。
「そりゃ……だって高校ってたったの3年間だろ? 君に限らずできればみんなと仲良くしたいし」
ちょっと聞いた? 優等生な発言だ、はずさないねぇ。
でも。やはり子供だ、眉毛ぴくぴく動いてるよ。
「ね、誰が君にわざわざそんなこと言ったの?」
ほほう。高臣君。あんたのことじっくり調べてみる必要がありそうだね。わざわざゲロするもんかい。
「実は、カマかけてみたんだ。ごめんね。だって皆僕のこと気を使って何も言ってくれないし」
あたしはここで『悠君』最大の美点であるかわゆらしさを駆使して目を伏せた。
「なんだ、そうだったのか」
高臣君はやや大げさに胸をなでおろしてみせる。
せっかくなんで他のヤツ何人かにも「カマかけ」をしてみた。
すると、まぁ、高校生といってもお子ちゃまだ。
「なに、思い出したの? どこまで」
なーんてな感じで頼みもしないのにしゃべるしゃべる。なんだ、早くからこの手を使えばよかった。
というわけで、わかったのは皆に口止めしていたのは『高臣』だったってことと、悠は馬鹿ABC以外
からも結構イジメをうけていたってことだ。
「じゃ、なんで今はイジメられもせず、皆からなまあったかーく見守られているんだろうね」
考えがうまくまとまらない。
その日最後の授業がおわり、あたしは、考え事をしながら学校の門へと向かって歩いた。
すると、学校の門の前にどこかで見たような真っ白なおベンツ。
「やば」
やばい、やばい、今、会うのはやばい。
あたしは慌てて回れ右して裏門めがけて走り出した。
ところが。
「よう、お光。俺を避けるとはどういう了見だ」
こちらには真っ黒なおベンツ。そして車から降りてきた態度のでかい男。
あたしの亭主、シュウだった。
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2009/8/13 update