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『タラチネの涙』

立花薫

(2)


 

調査報告書


調査対象: 佐々木悠 17歳 

正確な氏名、生年月日不明 

血液型 A型 

既往症 なし

19○○年 6月18日、都内○○神社境内にて保護。その後二週間経過しても血縁者の捜索願いなし。

保護責任者遺棄の疑いにより警察介入のもと 血縁者を捜索、調査するが保護当時の衣類、所持品、自身の報告から得られる親族の情報は皆無。保護現場付近の聞き込みによる情報も皆無。現在にいたるまで血縁による保護者不明。

保護の際、自身で氏名、「ゆう」年齢は「2歳」と申告したため、当情報に基づき保護年月日から2年遡った年度を誕生年とし、月日はそのまま生年月日として戸籍申請される。

保護後、仮入園していた乳児園「たんぽぽの園」に正式入園
(詳細住所、連絡先は別紙にて詳細記述有り)

その1年後19○○年7月1日より後現在滞在している養護施設「まつぼっくり」へ転院。現在に至る。

尚、規定により高校卒業(満18歳)とともに退出予定。

在籍した小学校、中学校、高校のリストは別途添付。

 

 

「あーあ、何遍みても名作劇場の主人公みたいな過去だねぇ、全く」

 マンションのソファーにひっくりかえり、 「悠」の調査報告書第一ページを斜め読みしていた

あたしはため息をついた。

 この報告書を最初に渡されたのはシュウと『再会』してすぐ後だった。

 あれから更に情報が追加されて今じゃ結構な量になっている。

「悠が自殺した直前の人間関係をもっと知る必要がある。普通なら調べるのにこんなに時間がかから

ないはずなんだが、施設内部や学校内のこととなるとどうもやりにくいな。お前のほうで何か気づいた

ことはあるか」

 そう言ってシュウがあたしの顔をじっと見つめた。

「とりあえず復学してから今日までは誰かからいちゃもんつけられたことはないね。ただ……やっぱり

何か変だってことは認めるよ」

 あたしの言葉にシュウの眉毛が右上がりに動いた。

「なんていうかさ、まわりが親切すぎるんだよ。普通なら留年してもおかしくない長期の休みだったはず

だし、復学してからも補習でしっかりカバーしてくれたり、友達も色々カバーしてくれる……」

「他に何かないか」

「うーん」

 復学直後は、教師やら学級委員がやたらと気を使ってくれるのは自殺未遂した悠を心配して色々な

配慮がされている為だと思っていた。

 しかし、日がたつにつれてあることが気になるようになった。

 

 記憶をなくした今のあたし、つまり悠に、誰も『事件』前の悠のことを教えてくれないのだ。

 だってさ、普通なら誰と仲がよかったとか、何が好きだったかとかでてきそうなもんじゃないか。

 それが何もでてこない。ここまでくると意図的なもんだろう。

 『配慮』という名の壁があるような気がする。

 

「ほーら、だからこそ今日みたいなお誘いは大事なんじゃないか」

 そうさ、仲良くしておけば色々と聞き出せるかもしれないじゃない。なんでもかんでもダメだししやがって。

 ああ、一度納めた怒りがまた復活しそうだ。

 

「お光」

「いいかげんに、『悠』ってよんどくれって言ってるだろう」

 顔をそらせたあたしにシュウはゆっくりと話し出した。

「……お光、よく聴くんだ。悠のことについては警察の捜査状況も調べさせた。

一人の青年が体中に怪我をしてその直後に自殺した、その割には捜査があまりにもずさんだ。

ちゃんと調べがつくまでは下手に動かないでくれ」

「なんだいそりゃ、ちょっと心配しすぎじゃないの」 

 シュウはあたしの頬に手を添えた。

「お光、俺はもう二度とあんな思いをするのは御免だ」

 

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2007/6/4 update  

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