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『収穫祭』

後編

 

「だからってどうしてこんなに買っちゃうかな」

 バーサは両手に二つづつ、例のやきそば饅頭を持っていた。

 喜ぶバーサに気をよくしたアルド王子が全部もらう、と言った時バーサは慌てて断ったものの、

結局こうして両手がふさがるほど買われてしまったのである。

 

  

  お祭りに来て買い食いしながら歩くなどとはバーサにとって何年ぶりのことであった。

 小さい頃、妹と二人で出かけた夏祭りを懐かしく思い出しながらバーサはやきそば饅頭に口をつけた。

 アルド王子も一つ食したものの口に合わなかったのかあとは全部バーサが食べることになり、お腹が

はちきれそうになりながらも何とか食べきったのである。

 

 一旦メインストリートに出た後、今度は別の角を曲がると先ほどの屋台街とは違った雰囲気が漂っていた。

 この通りには屋台ではなく小さなテントのようなものがそこかしこに建っており、それぞれの中にマントに

身を包んだ老人達が座っていた。

 一人の場合もあったし、数人で大仰な動きをしているものもあったが、共通しているのはすべてのテントに

小さなテーブルが備え付けられているということだろうか。

「星詠視市(ほしよみいち)だ」

 不思議そうに見渡すバーサにアルド王子が説明した。

「星詠視市?」

「 ああ、ここにいる老人全員が星詠(ほしよみ)だ。人々の未来を星の動きで視る。主に若い男女がお互いの

将来を視てもらう」

 それを聞いてバーサは日本の占い師のようなものだな、と納得した。

 

 

「おお、そこの娘ご、おまえじゃよ、お前」

 一人の老婆が大声を上げた。辺りを見回したが、どうもバーサを呼んでいるようである。

「あの、私ですか」

「おうよ、おまえじゃ、お前。面白いのう、お前様が通ったとき、星が動いたわ」

 彼女も星詠であるらしい。もごもごとしゃべりながらバーサにテーブルをのぞくよう促す。

 見ると黒曜石を磨きこんだような表面のテーブルのうえに小さな色とりどりの玉が揺らめいていた。

 アルド王子も続いてのぞき込んだ。

「おやおや、お前のほうはこの娘ごの崇拝者かね、すぐに分かるよ、わしは優れた星詠だからね、その

腰布が証拠じゃ、どれ、わしがお前達を視てやろう」

   星詠に指摘されてバーサは今頃気がついた。この国では男の腰布に特別な意味があることを。

「うわ、とんでもないものお借りしてしまった……汚さないように返さなくちゃ」

 バーサがそう思っていると星詠はぶつぶつと呪文のようなものを唱え、テーブルに手をかざしひらひらと動かす。

「お前、遠いところから来たのう、どこじゃ『ここ』は……」

 ひとしきり呪文を唱えた後星詠がつぶやいた。

「だが、お前の故郷には誰もおらん……」ここで言葉をとめると顔をしかめ手を振るわせた。

「お前……なぜだろうね、戦のない国に視えるが……ああ、こりゃぁ、姉妹かね、かわいそうなことだね」

 バーサは息を呑み、目を見開いて星詠を見つめた。

「あの、私は……私はいつか故郷に帰ることになるのでしょうか」

 思わずバーサは星詠に問うていた。

「かえりたいのかね」

 ききとれないほどかすかな声で星詠は聞いてくる。

「 一番怖ろしいのは……急に帰ることになる、そのことです。誰にも何も伝えられず、別れも言えずに帰るのは

嫌です」

 バーサが答えると黒曜石のテーブル上にあった玉が動く。

「ほ、ほう、ほう、そりゃ、よかったね、心配しなくてもお前はここにいるしかないからね。お前はここで『コヒヒューサ』

を知ることになる」

「コヒ……」意味の分からぬ単語にバーサは眉をひそめた。

「『かわらないもの』どこに行っても、なにがあっても不動のもの、判りやすく言うとそんな意味だ」

 星詠の老婆に代わってアルド王子が答えた。

「さて、次はお前のほうじゃ、ほう、ほう、ほう、お前身分があるだろう。こういう手合いは守りが多くてよく視えん

のじゃ」

 星詠が黒曜石に手をかざすと、また玉が動いた。

「…お前達は……3人の子に恵まれる」

その言葉にバーサが驚くより先に、「なんだ、少ないな」 そうアルド王子が答えると、

「少ないが、全部ちゃんと育つ、ぜいたくなことじゃ」 星詠は口を曲げてゆがませた。どうも笑っているらしい。

「しかし……この娘、ああ、なんじゃ、めんどくさい。荷物が多い」

 バーサは途中から意味が分からず首をかしげていたがアルド王子は真剣に聞き入っていた。

「人にはそれ相応に試練があるもの、それもお前のコヒヒューサじゃ」

 星詠はバーサの手をとるとしわだらけの手で優しく撫で顔を上げる。その節、老婆のマントが少しはだけた。

 バーサはようやく星詠の顔をじっくりと 見たが、その瞳は白くにごり、重度の白内障であると思わせた。

 おそらく視力はほとんどないに違いない。

 それでもこの星詠は目が見えているとしか思えぬように動き、語り、星を詠む。

「さあて、終わりだ。これ以上は視えないよ。ああ、御代はこの籠に」

 そそくさと籠を出した星詠をみてバーサは思わずふきだした。

 

 星詠のテントを出て歩き出すとアルド王子が難しい顔をしている。

 きっと私との間に子供ができるなどといわれたせいだ、そう思ったバーサは慌てて声をかけた。

「私の国にも星詠ににた職業の方達がいます。ですが全部あたっているとは限らないのです。本人の努力と

行動で未来はいくらでも変わるのです。私はいつも、都合のよいところだけ当たることにして悪いことは考え

ないようにしていました」

 その言葉に王子はしばらくバーサの顔を見詰めていたが、

「そうか、では都合のいいことだけが当たることとするか」 そしてにやりと笑った。

 

 

 城へ戻ると待ち構えていたのは『脱走』に気がついたサガ宰相であった。

「バーサ、お前が付いていながら何たることだ」

 きつく詰め寄る宰相に、「そう怒るな」 とのんきに答えたアルド王子の言葉はサガ宰相の怒りの火に油を注い

だようだ。

「全く、何の実りもないことをなさってばかりで」

 だがこの言葉にアルド王子は首を振った。

「いや、今日は実りの多い日だったぞ、サガ、お前の願いが叶うそうだ」

 

 

 その後、バーサは一晩中眠れなかったせいでふらふらに、アルド王子は元気に意気揚々と、サガ宰相は

王子の言葉の意味が分からず、気が済まぬままつい口を滑らせてルリナ姫に2人が一晩中一緒にいたことを

伝えてしまった。

 サガ宰相が王子の言葉を理解するのはまだまだ先の話である。 

                                                          番外編 了

 

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リクエストにお答えしできるだけ二人をいちゃつかせたつもりですが、バーサはいまいち理解しておりません・・・

皆様の三連休、いかがでしたか?
 

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2007/10/8 update

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