Kaoru Tachibana (C) all rights reserved.  

このページで使用している素材の2次配布を禁じます。 内容の無許可転載は厳禁です。


『収穫祭』

中編

 

「なんですか」

「お前……」

 

 そのまま王子が話を続けようとしているのは分かったが、バーサは後ろから二人に近寄ってきた赤ら顔の男が
 

 

気になった。

 まるで怒っているかのような表情のその男はまたしても兵士だろうか。腰に剣をぶら下げていた。

 足元はふらついているのに何かをぶつぶつ言いながら近寄ってくる。

「ちょっ、アルド王子、変ですあの男」

 バーサは無理やり王子から離れるとそのままアルド王子の背に回って身構えた。

 

「ど、どいつもコイツも……ま、祭でうかれやがって……」

 

 男はうつろな目をして歩きながらバーサを見据え、腰の剣を抜こうとしている。

 

 あと3歩近寄ってきたら、そう思いながらバーサは目だけを動かして周りを見た。

 どこも人にあふれている、下手な動きをすれば周りを巻き込んでしまう。……どうするか。

 

 ふとバーサの背後で動く気配がしたかと思うと耳元で何かがしなる音がした。

 と、同時にバーサの腰に何かがまきつくような衝撃を感じ、どよめきと何かがぶつかる音が響く。

「あれ?」

 気がつくとバーサはアルド王子の左腕に抱え込まれ、男は消えていた。

 見れば、振り上げた王子の右手には鞘が付いたままの剣が握られている。

「え、ええっ?」

 バーサが見渡すと、くだんの男は果物が山ほどつまれていた屋台に頭を突っ込んでいた。 

「邪魔だ」 

 そうつぶやいたアルド王子は剣をおろしバーサを抱えたまま屋台まで行くと、金貨をとりだして屋台の主に

握らせた。

「つぶれた果物の代金だ」

 

 

***********

 

 

「そう怒るなバーサ」

 先ほどとはうって変わってアルド王子は楽しそうに笑っていた。

「怒ってません、ああいうことをされるのは危険だと申し上げているのです。もう帰ります!」

「祭の夜にはあんなヤツが結構いるぞ。それにまだ全然案内していないだろうが」

 そういうと強引にバーサの手を引いて歩き出した。

「私を案内してどうするのです、だいたいどこに行くのですか」

 人通りの多いメインストリートを渡り、すぐ横の角を曲がると、道の端という端に屋台が並んでいた。

「うわ、すごい」

 驚くバーサを見てアルド王子は満足そうにうなずいた。

「この日だけは許可証なして出店を許しているからな。いろいろな食べ物があるぞ」

 その言葉に急に空腹を覚えたバーサだったが、首を振った。

「だめです。戻りま……」

 言いかけたときである。 バーサの鼻は懐かしいにおいを捕らえてしまった。

「うそ、これって」

 思わずにおいの元をたぐるとある屋台に目を留め、走りよった。

「どうした。これが欲しいのか」

「あの、あの、これはなんですか」

 ほこほことゆげがたつそれは一見茶色い饅頭にも見えるがにおいが違うのだ。

「さあ、私もはじめて見るな。おい、主(あるじ)これはなんだ」

 すると血色のよい顔をした主がはちきれんばかりの笑顔を見せながら答えた。

「これはあっしの故郷の食べ物でね、なかにスタラベっていう具がつまってるんですよ。どうですお一つ」

 主に差し出されて思わずバーサはそれを受け取ってしまった。

「食べてみろ」

 バーサはつばを飲み込んでそれを口にした。

「わああああああああ、懐かしい、この味」

 そして、おもわず破顔してしまった。

中身がぺヤングソース焼きそばだ!うわぁ、うっそ、このいんちきくさい味、なつかしい(緑は日本語)

 うれしそうなバーサに目を細めたアルド王子は

「どうした。そんなにうまいのか」

 バーサは興奮した表情そのままに首を縦にふった。

「私の国の食べ物に味がにているのです。ああ、なつかしい」

 すると王子は肩をすくめた。

「里心をつけるつもりはなかったんだがな」

 

前編へ 後編へ

 

ランキング参加 ポチッとな

 

←コンテンツページへ

2007/10/7 update

 ←ご感想はこちらまで