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『収穫祭』

前編

このお話は本編11話直後のお話になります。本編を読んでいただくとよりご理解いただけるかと思います。

 


 ラブァ国では年に一度、収穫の時期に平民、貴族、王族、身分に差なく祝う、大掛かりな祭り『収穫祭』が

ある。

 

 これはその年の豊穣を祝うものであり、翌年の豊作を願うものであり、また、男女の出会いの場ともなる。

 人々にとって人生における楽しみの一つなのだ。

 

 バーサがこの国の住人となって初めてのこの年、幸いなことに天候にも恵まれ豊作であった。

そのため祭りは例年にも増して大変な賑わいを見せていた。

 

「すごいなあ、日本の七夕祭とねぶた祭とおまけにバレンタインデー前日のチョコ売り場って所かな」

 変な例えをあげながら、バーサの気分も浮きたつようだった。

 

 ところが。

 

 もうすぐメインストリートという所で思いがけず、城にいるはずのルリナ姫とお供のダリを見つけてしまったのだ。

  隣国の王女ルリナはアルド王子との婚姻を望んで自らこの国へ乗り込んできた意志の強い女性である。

  お祭りに参加しようと城を抜け出す、そういう発想に結びつくのは簡単だろう。

 一応顔を見られぬように薄絹で隠していたが、王族が身に着ける上質できらびやかな衣装は人々の、

特に男共の目をひいた。

 危険を感じたバーサは慌てて彼女達を保護し、無事城まで送り届けたのである。

 

**************

 

「どうした、バーサ」

「はぁ」

 ルリナ姫を無事城まで連れ帰るための変装とはいえ、ルリばあさんの『祭り用の衣装』を着込んだままの

バーサはすその長い衣装をもてあましていた。

 アルド王子に事の次第を報告しているあいだもバーサをじっと見つめるアルド王子の視線が気になって

仕方がなく、思い切って再度お伺いをたててみた。

「アルド王子、やはり着替えてきてはいけませんか」

「なぜだ」

「なぜって」

 バーサがうらめしげに王子をみると、あちらは逆におもしろくてたまらないと言う表情をしている。

 服を変えるのは無理らしい、バーサはあきらめると話を別の方向へもっていくことにした。

「……そもそもルリナ様がお城を抜け出そうと考えるより先に、王子がご案内して差し上げればよかったではあり

ませんか」

 バーサのこの言葉にアルド王子は片方の眉を大きく動かした。

「なるほど、そういえばここ数年は挨拶以外で祭りに参加することもなかった。よし、わかった」

 アルド王子は一人納得し、立ち上がるとバーサを部屋に残したまま別室へと行ってしまった。

 「王子……」

  許可もなく立ち去るわけにもいかずどうしたものかとバーサが思案していると、

 

「待たせたな、いくぞ」

「はぁ?」

 

 みれば、アルド王子はターバンで髪を隠し上等な仕立ての服を脱ぎ捨てて市井の民のなりをしている。

 

「お、王子、まさかとは思いますが」

「気にするな」

「します!」

 

 その後はバーサがどんなに進言しても、どうなだめようとも、アルド王子はまったく聞き入れず先へ先へと行って

しまう。

 その迷いのない動きにバーサはあることを認めざるを得なかった。

 

「王子、脱走慣れしていますね」

 

 バーサは大きくため息をついた。

 

 

 

 深夜ではあったが明け方まで続く祭の熱気はまだまだ消えておらずメインストリートに繰り出している人々の数

は相当なものだった。

 

 バーサは人にぶつからぬよう注意しながらアルド王子に従っていたが、慣れない衣装のため足元がおぼつか

ない。

 「うわっ」

  とうとうすそを踏んでしまい、思いっきり前方に倒れこんでしまった。

 とっさに受身を取ろうとしたバーサだがそれよりも前にアルド王子が身をかがめて抱きとめた。

 

「気をつけろ」

「は、はい、ありがとうございます」

 

ところが。

 

「……細いな」

「は?」

「お前ちゃんと食べているのか」

 

次の瞬間アルド王子はバーサの腰をつかんでそのままひらりと持ち上げた。

まるで赤子をあやすように。

そしてそのままバーサの顔を凝視した。

 

「降ろしてください。周りの人が見ているじゃありませんか」

「気にするな」

「しますってば!」

 
 

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2007/10/4 update

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