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(8)
次の日からルリナ姫は何かにつけてバーサを呼びつけるようになった。
もちろんバーサはかなり気を配って姫と2人になることは避けていたが姫に「具合が悪い」といわれると気になって
一人でもこっそりと様子を見に行ったりしていた。
「バーサは何をしているんだ」
そんなバーサを見かねて不機嫌を隠さぬままアルド王子が聞くと、
「ルリナ姫が具合が悪いそうで」
王子に執務をうながしながらサガ宰相が答える。
「ルリナは自国の医者を同伴していたはずだが」
「わかりません。すべては王子が『忙しくて』時間がとれないのが原因ではありませんか」
すると王子は頭を振った。
「サガ、アルシャ国へ信書を書く。用意しろ」
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「外が賑やかですね、バーサ。明日はこの国の収穫祭があると聞きました」
この日もよびだされてバーサがルリナ姫のもとに行くと、先ず姫が聞いてきた。
「はい、年に一度、収穫の時期に行なわれるお祭りだそうです。かなり前から準備を始めて皆楽しみにしているよ
うです」
バーサが答えると、
「当然アルドも参加するのね」
大きな目をさらに大きく見開いて問いかけてくる。
「はい。大きな行事ですから」
「ねえ、バーサ。私はまだアルドの隣に立って参加してはいけないのかしら」
そうだった。ルリナ姫はもともとアルド王子と結婚をしたくてこの国にきたのだ。
この質問にどう答えたものか。
バーサが思案していると。
「バーサ。お前から聞いてみてもらえないかしら」
御願い、というより命令口調だ。
実を言うとこの手の話、王子に振りたくないなぁ。というのがバーサの本音だった。
日頃冷静沈着に執務を行なう王子だが、「結婚」の話をするととたんに王子は子供のようにすねてしまう。
それをなだめる為にバーサはいつも苦労してしまうのだ。
花嫁どころか側女の話すらいやがる王子にはバーサ自身も不思議ではあったが。
「バーサ。頼みましたよ」
ルリナ姫の期待を込めた瞳をみて思わず「はい」とうなずいてしまったのだった。
「王子、お時間よろしいですか」
その夜、執務が終わったのを確認してから王子のもとを訪ねると、
「バーサ、今日はほかに誰もいないな、やっと一人でくるようになったか」
なにやらご機嫌でむかえられた。
「お話があります」
「なんだ」
バーサはいつもの様に部屋の下座へ座ると王子に言った。
「ルリナ姫のことです」
とたんに王子はまゆをひそめて黙り込んだ。
「あれではおかわいそうです。その気が無いのならむしろお帰しになったほうがよいのではないでしょうか」
すると彼は首を振って
「何度も帰れと言った。ルリナの父君に書簡も送った。だがあれが動かん。諸外国の手前、招待したことにはなって
いるが」
「そうなのですか」
バーサは溜息をついた。アルド王子が何もしていないわけは無かったのだ。
「……王子はなぜそんなに誰かを娶るのがイヤなのですか」
怒鳴られるのを覚悟で聞いてみた。今まで何度ものどまで出かかっていた質問だった。
「側女だの妾姫だのは必要ない」
「正妃もいらないとおっしゃるのですか」
こわごわ尋ねると予想に反して優しい声で返事が返ってきた。
「それは違う。ただ私の妃には『何も知らない小娘』を貰う気はないと言ってるんだ」
「何も知らない小娘?」
バー○ンのことじゃないよな……(能面フェイスでこんなことを考えるバーサ)
意味がわからない。言葉のせいか王子が言った意味がわからずバーサは困ってしまった。
小首をかしげていると、
「ん、意味がわからないか。バーサ。つまりだな、私の仕事を理解し、手伝える女性でないとダメだといったのだ。
彼女は甘やかされたただのお姫様だからな」 そう説明した。
「ああ、なるほど……でも」
「ルシードが生きていればまた別だったかもしれないが。私が国を離れているときも私の代行を務められる
くらいの女性でないと駄目ということだ」
そりゃあ『アマゾネス軍団の女王』でもないと無理では。心でそんなツッコミをいれつつバーサが見上げると王子は
嬉しそうに微笑んだ。
「さて、今日はうるさいのがいないからな。ゆっくりしていけ、バーサ」
……こうなるから1人で来るの嫌だったんだけど。
バーサはまた溜息をついた。
2005/8/23 update