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(5)

 ある日のこと。

 隣国アルシャから大そう大きな貢物が届いた。

 

 長く顔見知りである使者も数十人ついてきており届いた荷物のふたを開けぬままアルド王子への謁見を願い出

てきた。

 確認も出来ない品を王子の前にだすのは、と、サガ宰相は中身の確認にぎりぎりまでこだわったが、隣国アル

シャは敵がくれば一緒に 闘う同盟国。

 いつまでも使者を受け入れないわけにも行かず、やむを得ず広間にて荷物の 周りを兵士でとりかこみ、王子

の前で開けることになった。

 そしてバーサも『何かあったときのため医者は多くいたほうがいい』と言う名目で 城へ呼ばれ、一番の下座へ控え

ていた。


 さて、皆があつまったところで隣国の使者がうやうやしく箱をあけると、


「ああ、いつまで待てばよいのかと慌てましたわ」


 なんと、中からは隣国のルリナ姫が。


「ルリナ、なるほどそういうことか」

 アルド王子は顔を露骨にしかめて呟くと、この段階になって使者がサガ宰相に隣国王からの手紙をさし

だした。まるで最初からそう取り決められていたかのように。

手紙の内容は、



『ラヴァ国  国王殿

 前略

  わが国一番の宝石を御国第一王子アルド様への贈り物とさせていただきたく。
 
お好きなように扱ってくださって構いません。
 
お気に召さぬ場合はいつでもどうぞ送り返しくださいませ。

                                                  敬具

                                        アルシャ国 国王』


「つまりは見合いですな」

  サガ宰相がいうと、

「私のお気持ちは随分前から王子様にお伝えしていたはずです」

  ルリナ姫が凛とした声で答える。

「こちらもその気はないと返事を伝えたはずだが」

「会ってもくださらぬのに納得が行きませんわ」

 ルリナ姫がこう切り返すと、王子はすぐさまサガ宰相を呼び、申し付けた。

「サガ! 返信の文を。

『宝石は確かに受け取りました。ですが余りにも輝きすぎて側に寄ることがかなわず、

手も触れずに宝石箱に大切に保管しております。

身に余る一品ゆえ、すぐに返送させていただきます。 以上』 すぐに伝達せよ」

「王子! それはあまりに」

「うるさい」

 それだけ言い終えると王子は広間をでていってしまった。

 サガ宰相はすぐさま姫と姫の使者を客間へと案内させ、バーサを呼ぶと、

「バーサ、いつもすまんが王子をたのむ」とだけ言い放った。

「はい。あの、宰相殿」

「なんだ」

「どなたか付けていただけませんか。私ひとりでは王子になにかあったとき対応で きません」

「……バーサ、お前は律儀だな」

 サガ宰相は溜息をつくと、兵士をひとり呼びバーサについて王子の元へ行くよう命じた。

「有難うございます」

 バーサは礼を言って下がった。




「バーサ先生は何があったか見えましたか?」

広間から下がるとお供につけられた兵士がバーサに尋ねてきたが、

「いや、私は広間の一番下座にいましたから王子のお顔も、相手のお姫様もよく見えませんでした。サガ宰相殿

からも王子のところへ行けといわれただけですし」 そう答えた。

 とはいうものの

「王子のご結婚相手かな」とはうすうす感じていた。

 

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2005/4/29 update

2005/5/4 改稿

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